「どうやるか?」なんて聞いても仕方ない。大切なのは「何をしたいか?」 未来を創る働き方、ソーシャルイノベーションの起こし方って?NPO法人「ミラツク」代表理事・西村勇哉さんに聞く(下)


「どうやるか?」なんて聞いても仕方ない。大切なのは「何をしたいか?」 未来を創る働き方、ソーシャルイノベーションの起こし方って?NPO法人「ミラツク」代表理事・西村勇哉さんに聞く(下)
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「既にある未来の可能性を実現する」というミッションを掲げ、異なる職種、異なる地域、異なるセクターなど領域を超えた協力を生みだし、アイデアの創出、起業家・事業者支援や、未来潮流探索による企業の新規事業創出支援などを行っているNPO法人「ミラツク」(京都市)。代表理事の西村勇哉さんのインタビュー(下)では、ソーシャルイノベーションを起こすために必要なことを聞いた。

◇聞き手・玉城江梨子(琉球新報Style編集部)

ソーシャルイノベーションを起こすために必要なことって?

インターネットを作った人たちの問題意識って、今いる銀河と別の銀河がどうやったらコミュニケーションを取れるのか?という設定から来ている。そのためにはどんなに離れていても瞬時にコミュニケーションを取れる何かが必要です。その何かって何だろう?がインターネットの基になった。どうやるのか?ではなくて、何をしたいのか?を考えることがすごく大事だと思います。人類はずっとどうやってできるのか?ではなくて、何がしたいのか?で変化してきた。

どうしても今順番が逆なんです。やり方は何か?具体的に何をするのか?と問われる。そんなこと聞かなくていいんです。みんなで考えればいい。やりたい、それはすごいおもしろい、という話ならそれで十分。あとはやる気。

今の時代、情報は個人でいくらでも手に入る時代なので、できる人を見つけて、誘って、誘った人の中で共感してくれる人を見つけて、やり方は後から見つければいい。どうやってやりたいことを見つけていくか?それが大事だと思っています。

やった時点ですごい!という文化が社会を変える

一番ダメなのは、「さっきのは具体的に何なの?」とか「今やっているこれが1000回繰り返すとそこに行くの?」みたいな話。そんな方向に話が行ってしまうのは、その人自身が周りからそんなコミュニケーションを求められているから。それを他の人にもしてしまって、多くの芽をつぶしてしまっている。残念ながら芽をつぶすサイクルが結構できあがっている。でもその反動で芽をつぶしすぎてダメじゃないかということも広がりつつある。まだやり方は分からないけど、芽をつぶさないための働き方や暮らし方、応援の仕方をみんな考え始めている。それ自体はまだまだ小さな取り組みだったり、発展途上だったりするんですけど、それだけで判断しないことが大事だと思っています。

クオリティはもちろん測れるし比べられるけど、クオリティが低いものがダメなのではなく、発展すればいい。まず、やるか、やらないかで大きく分かれている。やった時点ですごい。やって成功したら天才なんです。やった時点ですごいんだから、それをどうすれば発展させられるかをみんなで一緒に考えればいい。万が一、今の形態で発展しなければ、一回やめて次のものに移ればいい。ダメだという話は誰もできない。「君はダメだ」という話をしないことが大事。やった時点ですばらしいという文化を創っていければ、すごくいいなと思います。人間ってそもそも何かをよくしようという気持ちが勝手に発生するので、自然なことなんですけど、それに対して素直に行動している人たちをダメだと言わない。それだけでも世の中は大きく変わるはずです。

社会課題は悪気のない副作用

世界の人口はずっと増えていて、特に1950年からの数十年は25億人から76億人と爆発的に増加してきました。世界人口は、今後も100億人くらいまで増えてその後安定するか減少すると予想されています。でも人口増加率は落ちてきているんです。つまり、世界は今、人口増加と少子化が一緒に起こっている。そうした中で、少子化には人口増加が必要だと言い、人口増加に対しては少子化が必要だと言います。それが今同時に起こっています。両方起こっていて大量に課題を起こしている。ということは人口増加に対しての回答は少子化じゃないし、少子化に対する回答も人口増加ではないんです。

増えることも減ることも問題ではなくって、増えたときに起こること、減ったときに起こることを考えてなかったから困っているんです。人口が減っても福祉負担を国全体でどうするのか?まで考えておけば、年金の問題とか出ない。

社会課題というのは、悪気はないけど、昔の人が予測できなかった副作用なので、「そうとは思わなかった、ごめんね」みたいな感じで、未来への贈り物としてやってきたんですね。病気で苦しむのはしんどいし、何とか治せないかと長生きするために一生懸命努力した結果が高齢化なんですね。

社会課題は解決したいけど、社会課題は次から次へと出てきて終わることはない。だから、学んだことをいかに未来にパスするのかが大事だと思っています。完璧な答えは作れないかもしれないけど、僕らはここまで対応したから次はここまで考えてねというパスを未来に出せるか。こんなことをやるとこんなことが起こると分かったので、次は、と進化を繰り返すことが大事だと思います。

ソーシャルイノベーションと社会課題解決は違う

ソーシャルイノベーションとは社会課題解決ではなくて、社会課題解決とそれによって起こった新しい社会の出現、社会進化に取り組んでいくことです。向かい合ったものをもっていかに新しい社会をデザインするか、次にパスするのかが大事で、向かい合っている人たちはパスをする準備をしないといけない。現場で学んでいることをもって新しいパスを出さないといけない。教育と政策は次の未来へのパスになりやすいので、この2つに、現場で分かってきたことをいかに組みこんでいくかが重要です。

課題だけに向き合うとバーンアウトしてしまったり、つらくなったりするけど、ソーシャルイノベーションは未来志向的な取り組み、世の中このあとどうなっていくだろうという取り組みなんですね。それってすごく楽しい。昔だとそんなことを許されたのは貴族か王族か。そんな話ができるってすごいぜいたくだと思うんです。

西村 勇哉(にしむら・ゆうや)

NPO法人ミラツク 代表理事

1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学(Human Science)の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2008年より開始したダイアログBARの活動を前身に、2011年にNPO法人ミラツクを設立。

Emerging Future we already have(既に在る未来を実現する)をテーマに、起業家、企業、NPO、行政、大学など異なる立場の人たちが加わる、全国横断型のセクターを超えたソーシャルイノベーションプラットフォームの構築と未来潮流に基づいた新規事業創出のためのプロジェクト運営に取り組む。

共著「クリエイティブ・コミュニティ・デザイン」(フィルムアート社)

国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科 非常勤講師、大阪大学大学院国際公共政策研究科 招聘教員、関西大学総合情報学部 特任准教授