「セクハラ」報道を受け絶対にやってはいけないこと モバプリの知っ得![52]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

今月4月13日、財務省のトップ、福田淳一事務次官(当時)がテレビ朝日の女性社員にセクハラをしたとされる音声・やりとりが週刊誌で報じられました。福田氏はセクハラの事実を否定しながらも、事務次官を辞任。事実確認にかなり慎重な姿勢を見せていた財務省も、4月27日にようやく今回の事案を「セクハラ」と認定しています。

さらに4月25日、国民的アイドルグループ「TOKIO」のメンバー・山口達也氏が、自宅で泥酔し女子高生に無理やりキスをしたとして、強制わいせつ容疑で書類送検されていたことが明らかになりました。この事件で、山口氏は無期限の活動休止を発表しています。

注目を集めたこの2つのニュース。事件の発生原因や問題点はバラバラです。

しかし、被害者である女性を「ついていった方も悪い」「見返りを求めていたんだろ」と、批難する書き込みがネット上で見られるという共通点があります。

ひどい例では「被害者とされる女性はこいつだ!」と、個人情報を明かした全く配慮のない書き込みをしている人も…。

裁判官でもなければ、関係者ですらない私たちが、セクハラ事件を断罪する権利はありません。人を勝手に裁くことは私刑であり、ネットリンチです。

ましてや被害者を叩くことは論外であり、このこと自体が「ハラスメント(嫌がらせ)」です。

偉そうに人を裁いていると、自分が裁かれる側に転じることを自覚しなければなりません。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

セクハラ報道を受け、私たちが考えることとは?

2017年の秋、ハリウッドを中心に「#MeToo(私も)」というムーブメントが起きました。これは力関係によって被害者が泣き寝入りしやすい、セクシャルハラスメントを勇気を出して告発しよう、そして世の中からセクハラをなくしていこうというものです。

日本でも女性作家の「はあちゅう」さんがセクハラ・パワハラを告発し、#MeTooムーブメントに火がつきそうになりましたが、「はあちゅう自身もセクハラ発言しているだろ!」と非難が集中。一度は謝罪したものの、その謝罪や告発後の言動などにも非難が集中することとなりました。

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確かに、はあちゅうさんの過去の言動は、女性経験のない男性に対するハラスメントでしょう。しかしながらここで私たちが取るべき行動は「お前もやっているだろ」とブーメランを投げつけることではなく、セクハラの被害者が別の場所では加害者になり得る、それだけ身近で、注意をしないと人を傷つける可能性があると自覚することではないでしょうか。

セクハラの告発やMeTooムーブメントと自らを切り離し、「誰が悪いのか」を(部外者ゆえの)安全圏から審判し、嫌いな人を叩く。溜飲を下げて「はいOK!」というイベントごとにしてもハラスメントは社会から消えないでしょう。

こうした報道を受けた時に私たちが取るべき行動は、当事者に配慮した上で、自分自身の言動・また組織で同じようなハラスメントが起きないよう省みることです。

例えば、福田前事務次官の件で財務省は「被害を受けた女性に名乗り出るよう」と、圧力とも取られるような対応を促しました。

さらに財務省・矢野康治官房長は記者会見で「(名乗り出るのが)そんなに苦痛なのか?」と発言し、麻生太郎財務大臣も身内のパーティーで「(セクハラが)嫌なら担当記者を男の記者に替えればいい」「(福田氏が女性記者に) はめられ訴えられているんじゃないかとか、いろいろなご意見は世の中いっぱいある」と述べています。

冤罪を防ぐためにもセクハラ認定は慎重であった方がいい一方、この一連の発言はあまりにも被害者への配慮を欠いています。組織全体でセクハラを認める気がない、重大さを理解していないと思われてもおかしくありません。

日本トップクラスの頭脳である官僚や、総理経験者でもある麻生大臣がこうした認識であるのは、非常に残念であり恥ずかしい気持ちになります。しかし、これを反面教師として受け止め、どのような対応を取れば被害者を守りながら真相を解明できるのか、また組織や団体としてハラスメントが発生しないようにどうすればいいのか、考えることが大切です。

ハラスメントはシチュエーションごとに「適切な対応」が変わるため、さまざまな事例を自分ごととして受け止め、当事者となった時に少しでも解決に近い一手が打てるように、備える必要があります。

下劣な「セカンドレイプ」「ハニトラ認定」被害者バッシング

こうした「#MeToo」や、強制わいせつ事件が報じられると、被害者の行動を「落ち度」としてあげつらう人が出てきます。

例えば今回の山口達也氏の強制わいせつでは、女子高生が深夜に山口氏の自宅マンションを訪ねたことを受け、「夜中に男性の家に行く方が悪い」「女性が2人もいたから、嫌なことをされたら蹴り上げてでも拒否はできるはずだ」などの意見がネットに書き込まれています。

また、セクハラでは「お前が露出度の高い洋服をつけていたからだろ!」「二人で酒を飲むからだろ」などが常套句として使われます。

こうした言動を「セカンドレイプ」と呼びます。

セクハラ・レイプ行為のあと、再び尊厳を傷つけられるからです。

万人が納得する完璧な立ち振る舞いをしていないと、被害を受けた人が責められる。

そうした構造が、セクハラ・レイプ被害の告発を萎縮させ、泣き寝入りへとつながります。この風潮をなくすことが「#MeToo」の本質なのですが、誰でもSNSに投稿できる今、無自覚にセカンドレイプをしている人を多くみかけます。

さらに悪質なものは「ハニートラップ(略称:ハニトラ )」との言葉を使い、被害女性の「自作自演」を主張する人たちです。

ハニートラップとは主に女性スパイが性的な魅力でターゲットに近づき、機密情報などを盗み出すこと(男性スパイが女性に色仕掛けを行う「ロミオ」もあります)。

昨今ネットで使われる「ハニトラ」は、国家機密ではなく単に「性的な魅力を使ってターゲットを陥れる」というニュアンスで使われています。

いずれにしてもハニトラという言葉は、セクハラの事実を矮小化させるだけでなく、「被害者こそ実は加害者である」と言ったニュアンスが含まれます。

それは大きな自然災害が起き、苦しんでいる被災者の人たちに「お前らの行動が悪いから天罰が下った」と言葉を投げつけるようなものです。

「ハニトラ」の言葉を使うことは、もはやセカンドレイプという「二次的」な位置づけではなく、直接的でストレートなハラスメントになると言えます。

MeTooムーブメントやセクハラ報道が過熱する中で、「ハニトラ 」という言葉をよく見かけるようになり、使用することへの抵抗感が薄れる人がいるかもしれません。

しかしながら、この言葉を「被害者への非難」として使うと、自分自身がハラスメント加害者になることを自覚した方がいいでしょう。

そして、残念なことに被害者を非難する言動はそれだけでは終わりません。

福田前事務次官のセクハラ問題では、被害者への配慮としてテレビ朝日の女性社員の個人情報は伏せられていました。それにも関わらず、ネット上では被害者とされる女性の名前・顔写真などの情報が1枚の画像にまとめられ、何度も投稿されています。

残念ながら私の語彙力ではこうした人たちをどのように表現していいのか分かりません。「無礼で屈辱的」で、守るべき「個人情報」を悪用しており、「特定の人物へのいやがらせ」であり、「脅迫行為や暴力行為を助長している」と私は感じるため、Twitterでは淡々と運営者に報告しています。

ネットに書き込まれたうわさや、投稿された画像はどんどんと転載され、完全に消えることはありません。そして被害者を一生苦しめることになります。

こうした「魂の殺人」に無意識に加担しないよう、私たちは最大限配慮をして、ハラスメント問題に向き合わなくてはいけません。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」4月29日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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