街の小さな本屋さんに行ってみた。→新しい世界の扉が開いた。 「てみた。」42


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ページをめくる時のわくわくした気持ち、ぽっと心が温かくなったり、胸をかきむしられたり、そんな1冊に出合ったことはありますか。

街の小さな古書店や本屋は、希少本、珍しい本の宝庫です。まだ見たことのない世界に触れたくて、本屋の店主を訪ね、店イチ押しの本は何か聞いてみた。

沖縄市安慶田
子どもの本の店アルム

円形の書架の前に座る眞榮城栄子さん。下の段は、子どもたちが隠れるなどして遊べるようにあえて本を抜いている。

段差のない床を幼児がはいはいで動き回り、本棚の陰に隠れた子どもがにっこり笑う。1982年に開店した沖縄市安慶田の「子どもの本の店アルム」(眞榮城栄子店長)は、天井の高い室内に、本棚とベンチが輪を描くように並び、来店客に大木の根元にいるようなぬくもりと安心感をくれる。

「子どもにとって絵本は個の世界をつくり、紙芝居は共感をつくる」と話す眞榮城さんのこだわりで、約6千冊の蔵書と100種類を超える紙芝居が並ぶ。本や紙芝居を学ぶ会「くすぬちゆんたく広場こだま」を99年からはじめ、児童文化を学ぶ人々の交流の場にもなっている。

眞榮城さん推しの絵本「ブラザーイーグル、シスタースカイ―酋長シアトルからのメッセージ」(絵・スーザン・ジェファーズ、訳・徳岡久生、中西敏夫)。「はじめて読んだとき涙が止まらなかった。絵を“読みながら”心の中で解釈をしてほしい」(眞榮城さん)

お勧めの1冊は、絵本「ブラザーイーグル、シスタースカイ―酋長シアトルからのメッセージ」。

インディアンの部族の土地を買いにきた白人を前に酋長シアトルが語り掛けた言葉を、ジェファーズが情感豊かな絵で表現した作品。絵からは自然の豊かさや人物の心情、自然や祖先を敬って生きるインディアンの文化が読み取れる。


那覇市若狭 ちはや書房

妻の寿枝さんと水木本の魅力について語り合う店主の櫻井伸浩さん。

那覇市若狭の一角にたたずむ「ちはや書房」。沖縄関連本や文学、絵本、ジャズなど幅広い書籍2万冊を扱うが、知る人ぞ知る「漫画家水木しげるに強い」古書店でもある。店主でコレクターの櫻井伸浩さん(45)が店内に並べるのは、コレクションと「ダブって購入した」150冊。自宅には、小学3年から集めた700冊を保管している。

櫻井さんイチ推しの水木しげる作「悪魔くん」(小学館クリエイティブ)。ちはや書房では「貸本版 普及版」第1・2巻の3冊セットで3500円で販売。貸本時代の初版であれば1冊数十万円はくだらないといわれる。

櫻井さんが2万冊の中から選んだのは「悪魔くん」。「貸本」が全盛期だった1960年代に水木が描いた名作だ。「争いのない平和な社会を目指して現代に戦いを挑む悪魔くんに、自分の思いを重ねたんじゃないか」と語る。

水木への愛にあふれた店主らしく、お客とのエピソードもユニークだ。お客の1人が、偶然にもコアなファンで結成された「関東水木会」の一員で、同郷で同年代。「妖怪100物語」を読んで水木のとりこになった点も同じだった。「1冊の本をきっかけに、民俗学者になった彼と古本屋になった僕。不思議な縁を感じた」と櫻井さん。

本は人と人とをつなげ、時には人生を決定づける。お客と店主の距離が近い小さな書店だからこそ生まれた出会いだろう。


八重瀬町屋宜原
くじらブックス&Zou Cafe

「くじらブックス」は今年2月、八重瀬町の新興住宅街に開店した小さな本屋。店内には、店主の渡慶次美帆さん(34)が選んだ話題の新刊本や雑誌、買い取りで店にやってきた沖縄関連本などの古書2千冊が並ぶ。

店内でひときわ目を引くのが、大小さまざまな仕掛け絵本を置いたコーナーだ。ページをめくるたび飛び出す物語にわくわくして心が踊る。どの子どもも真っ先に飛びつくという。

店内には大小さまざまな仕掛け絵本が並べられた本棚。両手に載るサイズはインテリアとして大人にも人気だという。
渡慶次さん推しの「うらしまたろう」(青幻舎)

「他にはない楽しい本」として渡慶次さんが押すのは、仕掛け絵本の中でも変わり種の「うらしまたろう」。折りたたまれた紙を広げると、実物大の亀の絵が現れる。紙の上に寝っ転がりながら亀の周囲に書き込まれた物語を読み進めていく、子どもが夢中になること請け合いの1冊だ。渡慶次さんは「お客さんがまだ出合ったことのない本をつなげたい」と笑顔を見せる。

本を購入後、店内のカフェで読書を始めるお客も多いのだとか。カレーやコーヒーを味わいながらの読書。なんとも豊かな時間だ。


宜野湾市宜野湾 榕樹書林

宜野湾市宜野湾の「榕樹書林」(武石和実社長)は30年以上の歴史を持ち、1万冊を超える蔵書数と県内有数の価値ある書物を扱う。詩人・山之口貘の色紙など珍しいアイテムも並ぶ。人文系書物を中心に郷土図書の出版も行う。

榕樹書林

「組踊を勉強中だ」という記者に勧めてくれた1冊は「琉球古典組踊全集」。那覇市首里にあった三ツ星印刷の経営者當間清弘が1955年に発行した組踊の台本集。

武石さんによると、「琉球―」はこの後装丁をして何度か出版し直されたが、同書は最初に出された作品だという。値段は3万円。「石版印刷という本土では使われなくなった手法で刷られており、印刷技術の歴史を知る上でも貴重な本だ」

武石さん推しの「琉球古典組踊全集」
榕樹書林の武石和実社長


那覇市松尾 言事堂

美術・工芸専門の古本を扱う那覇市の「言事堂(ことことどう)」は、芸術に関わる人が活動しやすい環境をつくろうと、店主の宮城未来さんが2007年5月にオープンした。

言事堂

主にカメラマンや美術教師、芸大生らが訪れるが、店の2階にある椅子で本を読んでいたおじいさんが居眠りをしていることも。また近所の子どもたちが店に来て、絵を描いたり宮城さんとおしゃべりしたりと、幅広い世代が訪れる。

宮城さんは毎日、店と倉庫の本を10冊ほど入れ替える。「いつでも売れるように気にかけてあげる」という古書店を営む先輩の言葉を大切にしているからだ。すると、順番待ちで呼ばれたかのように店に出したその日に売れることがあるという。

店主の宮城未来さん
宮城さん推しの「写真集 望郷・沖縄全五巻揃」

宮城さんおすすめの本は「写真集 望郷・沖縄全五巻揃」。言事堂では税抜き1万8000円。

大正期の薬屋や呉服屋、銀行など沖縄発展の様子が分かる写真が載っている。戦争で失われた過去の沖縄の実態を知る「眼で見る歴史の本」だ。「昔の写真をもとにその場所に行き、今と比べながら遠い昔の沖縄に思いをはせられる」と楽しみ方を語った。


那覇市牧志 市場の古本屋ウララ

那覇市牧志の市場中央通り。婦人服店や宝石店が軒を連ねる中に「市場の古本屋ウララ」はある。並べられているのは沖縄本と一般書。「本の価値を店主が決められるのが古本の面白いところ。

時間がたち忘れられていく本を拾い上げて店に置き、次の世代につなげたい」と元書店員で店主の宇田智子さんは話す。

市場の古本屋ウララ
宇田さん推しの「ドライブイン」
ウララの店主 宇田智子さん

宇田さんお勧めの1冊は月刊同人誌の「ドライブイン」。税込み500円。全国のドライブイン情報を1冊につき2カ所紹介。店や地域の歴史などを書いている。

「10年後、20年後にはなくなってしまいそうなところに行き、今しか聞けないことを記録に残すのは大切だから」と選んだ。

(2018年6月17日 琉球新報掲載)