偽物の情報「フェイクニュース」の拡散が世界中で問題になっています。
2016年のアメリカ大統領選挙では、「ローマ法王がドナルド・トランプの支持を表明した」「ヒラリークリントンが児童売春に関与している」などのフェイクニュースが流布し、トランプ氏の当選をアシストしたとも言われています。
また沖縄県内でも昨年の10月に「路上で売られる乾燥海産物の臭いを嗅がせて気絶させ、臓器を抜き取られる」とした噂が広く拡散されました。
インターネットやスマートフォンのメッセージアプリが普及したことで、不確かな情報が物凄いスピードで拡散される土壌ができています。
こうした中でさらに頭を悩ませるのが「ディープフェイク」の登場です。
これは高度な画像合成技術により、見分けることが難しい「ニセモノ動画」のことです。
ただでさえ「情報の見極め」が難しい状況で、今後より高度な合成技術を兼ね備えたディープフェイクが登場することで、混乱がより広がるでしょう。
そうした時代で私たちが取るべき対応は、常に情報を疑い、怪しい情報は「拡散しない」という判断をすることです。
ディープフェイクで懸念される「政治離れ」
スマートフォンの写真加工アプリが、若い女性を中心に人気を集めています。
自撮り写真を「肌が綺麗に」「目を大きく」といった具合に、加工する事ができるのです。
スマートフォン登場初期の写真加工アプリでは、撮影後に加工が可能でした。
しかし顔認識技術が向上した現在のアプリは、撮影している最中に、リアルタイムで写真を加工することができるのです。
ディープフェイクはこのような画像加工アプリの精度を、より高めたようなイメージです。「加工したかどうか、人間が判断するのは不可能」なレベルの動画を作ることができます。
この技術で、真っ先に懸念されることはディープフェイク動画を使って政治や選挙を混乱させることです。政治家や立候補者の顔を使い、彼らの考えと180度逆の発言をさせた動画を作ることができるのです。
ディープフェイクがまだ浸透していない現在でも、ただでさえフェイクニュースが蔓延しており、選挙時の際に行われるファクトチェック(事実確認)は大変な作業を伴います。
フェイクニュースや不確かな情報をばら撒くことは簡単にできますが、そのチェックはとてつもない時間と労力を使うことになるのです。
「この発言が正しいか」を必死になって調べている中、「この映像が正しいか」を調べる作業が追加されることになります。しかも目視での判断ができないレベルです。
ディープフェイクが選挙で悪用され、チェックのハードルが上がることで、「見極めるのが難しすぎて面倒くさいな」と政治離れが加速する懸念もあります。
選挙は私たち社会の「これから」を導くための代表を決める、とても大事なイベントです。ディープフェイクによって選挙結果が左右されたり、離脱を促進されることがあれば、私たち社会の「これから」は良いものにならないでしょう。
ディープフェイクで人間関係のトラブルも?
ディープフェイクへの懸念は政治だけにとどまりません。
前述した「画像加工アプリ」のようにスマートフォンに簡単に取り込むことができ、誰でもディープフェイク動画が作れるようになると、人間関係のトラブルに発展することも考えられます。
例えば、「AさんがBさんの悪口を言っていたよ」としたディープフェイクの動画を作ることもできます。
「あいつとあいつの仲を悪くさせよう」と思うと、今後そのようなアプリを使って動画を作ることもできると考えられます。
仮に、あとから「ディープフェイクだった」と知っても、その時に受けた嫌な印象は引きずり、人間関係がギクシャクするかもしれません。
また、ポルノ動画に別人の顔を貼り付ける「フェイクポルノ」も登場しています。
すでに公開・販売されているポルノ動画に、恋人やパートナー、知り合いの顔を見分けが付かないレベルで合成し、コラージュ動画を作るのです。
本当の自分の裸でなくとも、意図せずにこうした動画が作られて流布されることを良しとする人はほとんどいないでしょう。
政治家だけでなく、私たち一人一人がディープフェイクの被害にあう可能性があるのです。
ディープフェイクが広がらないために
ディープフェイクの誕生と共に、ディープフェイクを見極めるためのツールも登場しています。ディープフェイク作成ソフトやアプリで作った動画に対してアラート(警告)を出すのです。
しかしながら、こうしたツールが出てきても、それをすり抜けるディープフェイクソフトが出てくる恐れもあり、「イタチごっこ」が繰り返される可能性があります。
結局のところ、ディープフェイクに対して簡単に対抗できる「特効薬」は存在せずに、一人ひとりが「事実確認」をしてディープフェイクを疑う姿勢が問われることになるでしょう。
どれだけ見破りにくいフェイクでも、拡散させる人がいなければ見る人の数も少なくなります。逆にファクトチェックされた情報を拡散させればいいのです。
しかしながら、こうした作業は簡単なことではありません。
「フェイクを止めて、ファクトを拡散」ができるのであれば、今現在フェイクニュースは広がっていないわけで….。
技術が発達し、その技術が良くも悪くも使われるこの時代において、最後は一人ひとりの「姿勢」が問われます。
安易なフェイク側に立たず、たとえ難儀でもファクトを大事にする。
こうした心構えで、これから到来する「ディープフェイク」時代に臨む必要があります。
琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」10月14日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。
親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。
【プロフィル】
モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。