沖縄のお笑い芸能事務所「オリジン・コーポレーション」が沖縄戦に挑むワケ


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沖縄の芸能プロダクション「オリジン・コーポレーション」の永田健作です。

“人を生かすマルチ裏方”として、所属する芸人さんやタレントさん、「劇団O.Z.E(オゼ)」の役者さんのマネジメントをしながら、演出・脚本も書いています。時には「動くマネキン」になったりもします。

そんな話をすると「華やかな世界の人」って思うしれませんが、それは大きな勘違い! 沖縄という小さな島で、芸人やタレント業、演劇だけで「食っていく」のは、とても難しいことなんです。

「演劇って、そもそも人に必要とされていないんじゃないの?」

暗黒のような自己否定の世界におぼれそうになっていた時、ある人との出会いに恵まれました。NPO法人自然体験学校の理事長をしている若林伸一さんです。
 

白梅同窓会の武村豊さん(下段左)と、中山きくさん(同右)と、舞台「白梅学徒隊から託されたもの」の出演者たち

「沖縄戦を語り継ぐ」ということ

若林さんは「沖縄戦を語り継ぐ」というミッションを持っていました。「このままでは沖縄戦を語り継げなくなってしまう」という強い危機感を抱いているからです。

  • 沖縄戦を生き抜いた方々が高齢化し、講話などの活動が難しくなっている。
  • もし語り継ぐことができなければ、沖縄戦は風化してしまうかもしれない。
  • 戦争の痛みを忘れてしまったら、また同じことが繰り返されるかもしれない。
  • 沖縄戦を生き抜いて、命を繋いでくれた人たちの想いを消してはいけない。

そんな思いを語ってくれました。

白梅のきくさん、とよさんとの出会い

「沖縄戦の継承」という非常に大切で難しい問題と、若林さんの熱い思いに圧倒されっぱなしだった僕に、若林さんは後日、白梅同窓会会長の中山きくさんに引き合わせてくれました。きくさんは沖縄戦で従軍看護婦として動員された、白梅学徒隊の一員だった方です。

きくさんは初対面の僕に、戦時中のことをたくさん話してくれました。

日本が負けるなんて思いもしなかったこと。戦場の現実や、友達の死、二度と会えなくなってしまった家族のこと…。

すべては、たった73年前の「最近のこと」だったんです。

きくさんはおっしゃいました。
「沖縄戦はね、殺人と破壊よ」と。

絶対に戦争をしてはならない。誰だって大好きな人たちと平和に過ごしていきたいはず。それなのになぜ戦争はなくならないのか‥。きくさんはおっしゃいました。

「人間と他の動物が違うのは、対話ができること。話し合いができること。これが人間の武器だよ。争うことが武器ではない」と。

きくさんには1年半にわたり、何度もお会いして、お話を聞かせていただきました。話を聞けば聞くほど、そして資料を調べれば調べるほど、「沖縄戦を生き抜いた人たちの想いを繋いでいかなければいけない」という感情がわき上がってきました。

「白梅学徒隊から託されたもの」に込めた思い 

自分に沖縄戦を描くことなんて、無理なんじゃないか。

いや、誰か、ではなく、まずは僕が学んだことを、誰かに伝えたい。

これこそが今、僕たち劇団に求められていることなんじゃないか。

「平和に生きていきたい」。その想いがすべての人の願いであるならば、この作品は社会に、人々に必要としてもらえるのではないか-。

そんな迷いと決意が入り交じった感情の中、必死になって脚本を書き上げた舞台が「白梅学徒隊から託されたもの」という作品です。登場人物はフィクションですが、舞台のストーリーはきくさんや、同じ学徒隊だった武村豊(とよ)さんから聞いたお話がベースになっています。

上演に当たって、当時と変わらない年代の女の子たちをキャスティングしました。中学1年生の比嘉飛鳥さん、大城香音さんの2人が中心となっています。この作品を演じることで、彼女たちが新しい語り手になってほしい、との願いも込めて。

日本兵を演じる劇団O.Z.Eの新垣晋也、白梅学徒隊の解散を告げるシーン(2018年5月3日撮影、那覇市前島ターミナル)
劇団O.Z.Eの呉屋みずき。学徒隊に招集された娘から遺書を渡される母親を演じる。(2018年5月3日撮影、那覇市前島ターミナル)

作品が完成したとき、真っ先にきくさん、豊さんの前で上演させてもらいました。不安もありましたが、お二人は涙を流しながら、「この作品をぜひ広めてほしい」と背中を押してくださいました。

きくさん、とよさんの想いを、僕たちは後世に、そして沖縄だけでなく、広く全国に繋いでいきたいと思っています。

武村豊さん(左から4人目)、中山きくさん(同5人目)にも作品を観ていただきました

12月23日、那覇市のひめゆりピースホールで初上演
(那覇市の栄町市場内)

この作品を12月23日、沖縄で初上演します。
12月26日には、沖縄県が主催する大阪での修学旅行フェアで上演が決まりました。
まずは沖縄の皆さんに観ていただき、ご意見もいただきたいと思っています。

ぜひご来場ください。

【作品】『白梅学徒隊から託されたもの』
【日時】平成30年12月23日(日)13:30開場/14:00開演/14:40終演
【場所】ひめゆりピースホール(那覇市安里388-1)栄町市場内
【料金】大人:1,500円/学生(大学・専門学生ふくむ):1,000円
【あらすじ】白梅学徒隊として沖縄戦を生き抜いた和子のもとに、元日本兵から一通の手紙が届く。封印していた当時の出来事が、和子の心によみがえる。
【ご予約】メールでのご予約となります。「origin@wine.ocn.ne.jp」(オリジン・コーポレーション)、件名に『公演の予約』と書いていただき、メール本文にて『氏名・希望枚数』だけお送りください。

講演についての詳細はコチラでご確認ください。→永田健作ブログ(http://ken392020.com/181203-1?fbclid=IwAR3IS-jXoHif9_p6brJvXkKJRzYk73nmpeKQYv5vmEyskCUSGw9dUoJYaTM​