「妻」を撮り続けた写真家が気づいたこと【平敷兼七×タイラジュン二人展】


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 ファインダーを通して見つめ合う 

故・平敷兼七さんとタイラジュンさんによる写真展「『妻≠私写真』〔妻を写すと私が写るわけではない〕」が開催されている。2人の写真家がそれぞれの「妻」を撮影した作品を集めた展示だ。タイトルから難しい内容なのだろうか、と思ったが、会場に入ると、おだやかな表情をした2人の女性の写真が出迎えてくれた。それらが丁寧に撮影されてきたことも伝わってくる。親密な人を写真に撮ることで何を表現したのだろう。ユニークな個展を企画したタイラさんに話を聞いた。​

左から、平敷さんの次女・當間七海さん、平敷兼七さん(中央の写真)、展示を企画したタイラジュンさん。浦添市城間の平敷兼七ギャラリーにて 
写真から出る「視線」を感じさせるために、立体的な展示がされたギャラリー内

浦添市城間にある「平敷兼七ギャラリー」では現在、平敷兼七さんとタイラジュンさんがそれぞれの「妻」を撮影した写真が並んでいる。写真のほとんどが二人の女性にフォーカスしたものだ。

平敷さんの写真は30年近く前に撮られたものが中心。子どもを世話しながらほほ笑む妻・初子さんを自然な感じで収めている。平敷さんの写真は、沖縄の伝統祭祀や戦後を生きた労働者を主題にしたものが有名なので、今回の展示からは、意外な印象を受ける人もいるかもしれない。

一方、タイラさんの写真は2009年ごろから現在にわたって、妻の真寿美(ますみ)さんを撮影したもの。一枚一枚は日々の生活の合間に撮っているそうだが、10年間継続してその試みを続けてきた。

展示方法も独特で、写真はイーゼルに立てかけるなどし、ギャラリー内にランダムに配置されている。このため来場者は、思い思いの動線で作品を鑑賞することになる。

タイラさんに、個展についてたずねると、平敷兼七ギャラリーとそこで行われてきた「二人展」シリーズの経緯から説明してくれた。

故人との「二人展」

「平敷さんと生前交流のあった人で、ギャラリーの活性化をお手伝いしようと始めたのが二人展なんです」

タイラさんによると、平敷さんの次女・當間七海さんが「平敷兼七ギャラリー」をオープンしたことが二人展を始めるきっかけだったという。2009年に亡くなった平敷さんの遺した膨大な量の写真(未現像のフィルム含む)を整理・活用しようと當間さんが手探りで始めたギャラリー。その初期の運営をサポートするために、タイラさんを含めた11人の写真家が平敷さんの作品とコラボする二人展を企画したそうだ。

この二人展が独特なのは、各回ごとに出展する写真家が個別のテーマを決め、自らの写真とともに平敷さんの作品もセレクトする、という点。これまでも、沖縄の伝統行事や風景、人や生き物などのテーマに合わせ、平敷さんの写真が展示されてきた。さまざまなテーマで行われてきた二人展はどれも、平敷さんの遺品の整理には止まらない、クリエーティブな印象を受ける。彼の撮った写真が多岐にわたっていたからこそできる企画なのだ、とタイラさんは言う。

「視線」が伝えること

今回の「妻≠私写真」というテーマはこれまでの二人展にはなかった手法で平敷さんとの展示を実現している。タイラさんは、今回の展示で被写体の「視線」を表現しようと試みた。

もともと、妻である真寿美さんの写真を撮り始めたきっかけは、「話下手」だという自分の気持ちを表現するためだった。しかし撮影を重ねるうちに、被写体である真寿美さんから見つめ返されることで、お互いの関係性を確かめ、言葉にできない気持ちを整理できていると気づいたという。

また、「写真家の視線は結構クローズアップされるけど、被写体の視線は、あまり取り上げられないなぁ」とも感じたそうだ。そこで、被写体、すなわち撮られる側の視線を感じるような形での展示を企画した。今回セレクトされた平敷さんの写真にも、妻、そして家族との関係性を確かめるような意味があったはず、とタイラさんは考える。

加えてタイラさんは、妻の写真で「撮影者の自分」を表現しているわけではない、と注意深く語る。「人は視線を投げかける他者がいることで、自分自身について知ることができる」、ということを伝えるのが今回の展示なのだ。タイトルの「妻」と「私」の間に入っている「≠(ノットイコール、同じではない)」にはそんな繊細な意味が込められている。

二人の写真家が表現した「視線」をぜひ会場で感じ取ってほしい。

(津波典泰)

平敷兼七 二人展シリーズVol.11
『妻≠私写真』〔妻を写すと私が写るわけではない〕

場 所:平敷兼七ギャラリー 浦添市城間1-38-6
期 間:~2月24日まで
時 間:10:00~18:00
入場料:500円 定休日:火曜
 
タイラジュン、石川竜一トークイベント
日 時:1月27日(日)、14:00~16:00
参加費:1000円

(2019年1月24日付 週刊レキオ掲載)