沖縄には、幼虫がバナナやバショウの葉を食べるチョウがいると聞きました。詳しく教えてくれませんか?
(那覇市 ハーベルさん)
確かに沖縄にはバナナやバショウがたくさん生えていますが…。幼虫がバナナの葉を食べるチョウがいるとは、読者の皆さんも、意外に思うのではないでしょうか。
ベトナム戦争時に沖縄へ
というわけで、調査員は県営中城公園所長の比嘉正一さんを訪ねて話を聞くことに。比嘉さんは沖縄昆虫同好会会長も務め、チョウの生態にたいへん詳しいお方。このチョウについて聞いてみると「それはバナナセセリというチョウですね」と教えてくれました。
そのものズバリ、バナナという名前がついたチョウなのですね! 標本があるというので見せてもらうと…。あれれ、全体が茶色っぽくて、ガに近いような…。
「バナナセセリはセセリチョウ科のチョウなのですが、同科のチョウは見た目が地味なんです(笑)」。セセリチョウ科は小型の種が多いそうですが、バナナセセリは前翅(まえばね)の長さが約35ミリと大きく、同科の中では日本国内最大だそう。ちなみに、さきほど地味だと言いましたが、前翅にバナナ色の模様があるのがチャームポイントです。
このバナナセセリ、実は沖縄の在来種ではなく、もともとはインドシナ半島など熱帯地方のチョウなのだとか。
「1971年6月に北谷町の謝苅で最初に成虫が確認されました。日本で未記録のものが見つかったというので、新聞に大々的に載ったのを覚えています」
嘉手納基地に近い謝苅で見つかったため、ベトナム戦争で行き来していた米軍機が運んできたと推測されているそうです。
「それから3、4年ほどで本島全域に広まり、現在は久米島、石垣島、与那国島まで分布が広がっています」
葉を丸めて巣に
バナナセセリの幼虫が食べる食草はバショウ科の植物。ちなみにバナナとバショウは、同じバショウ科。芭蕉布の材料として使われるイトバショウと実が食べられる島バナナ、幼虫はどちらの葉も食べるといいます。
面白いのは、幼虫が葉で巣を作る習性があること。「バナナの葉の端が葉巻みたいにクルクル丸まっているのを見たことがあるでしょう? あれはバナナセセリの幼虫のしわざです」
ええっ! 見たことありますけど、葉が自然に丸まっているのかと思っていました。
「葉に切れ込みを入れ円筒形に巻き、口から吐く糸で固定します。この巣を開くと幼虫やさなぎがいることもありますよ。幼虫は昼間は巣の中にいて、夜になると出てきて葉を食べます」
なるほど~。なお、葉を食べることで実がつきにくくなることは多少あるかもしれないものの、木を枯らすことはないそう。ホッ。
「成虫は日暮れから夕方7~8時、または早朝に活動します。アゲハチョウ科の仲間のようにヒラヒラ飛ぶのではなく、ジェット機のように素早く飛びます」
薄暗い時間帯に素早く飛び、色も地味では、あまり見たことがないのも納得です。
成虫は、バナナの花などに飛来し、長~い口ふんで蜜を吸うのだそうです。
「バナナセセリはあまり一般には知られていませんが、いろいろなエピソードがあるチョウ。私は好きですよ」と目を細める比嘉さん。
姿を直接見たことはないけれど身近なチョウについて知り、まだまだ沖縄は知らないことばかり…と目を丸くした調査員でした!
(2022年2月24日 週刊レキオ掲載)