「この海」でつながる人々を思い歌う
ペルー出身で石垣島在住のシンガーソングライター、メリー荒木さん。優しさと、一本芯が通ったような前向きさを感じる歌声が特徴だ。日系4世の彼女は、自身のルーツがある沖縄にひかれ2018年に移住。現在は、沖縄の文化を学びながら音楽活動を続けている。沖縄への愛や曲に乗せる思いについて話を聞いた。
ペルーの首都、リマで生まれたメリー荒木さん。母方の祖母タケコ・モロミザト・ヒガさん、父方の祖母ユキコ・マツダ・ウエチさんから沖縄の話を聞きながら育った。県系人が集うコミュニティにも参加し、沖縄料理を味わい、沖縄民謡を聴き、エイサーを踊っていたという。
ペルーから沖縄へ
音楽活動のきっかけは2011年。両親の仕事の関係で群馬県に滞在していたメリーさんは、ちょうど沖縄で開催されていた「第5回 世界のウチナーンチュ大会」のことを知る。閉会式ではディアマンテス、宮沢和史さん、BEGINのステージを目の当たりにし、世界中から集まったうちなーんちゅが心を一つにした光景に強く心を奪われたそうだ。
「いつか、私もこのステージで演奏したい!」
そんな思いが湧いてきたと話すメリーさん。それまで音楽セラピストとして活動していたが、ミュージシャンとして音楽でうちなーんちゅの架け橋になることを決意。翌年には宮沢さんがプロデュースするイベント「ニッポニア」のペルー公演にサポートアクトとして参加を果たす。続く17年には、アルベルト城間さんの招待で1カ月間県内に滞在したという。この経験が決め手となり、18年に県内へ本格的に移住。夢見ていた沖縄での音楽活動が始まった。
移住当初は、那覇市内に住んだメリーさんだが、21年からは石垣市に引っ越している。石垣では、豊かな自然を楽しみ、同じ沖縄でも島や地域によって文化や歴史が違う、ということに日々感動しながら過ごしているそうだ。
「それぞれの島に誇りがある。違いがあるのが美しいなと感じます」とメリーさんは目を輝かせる。
先祖と自身を重ねて
昨年発売されたシングル『Este Mar(エステ・マール)』。タイトルは日本語に訳すと「この海」という意味だ。
「行かないでと言えないわ/ずっとあなたのことを考えている」
そんな歌詞で始まる曲には、彼女のルーツに対する思いが込められている。海を越え、文化の違いを超え、家族と離れる寂しさを超え移民をした人たち…。「曲を作った時は、最初に移民をしたご先祖を思い浮かべていました」と話すメリーさん。しかし、後で気付いたのは、ペルーから沖縄に自分を送り出した両親も同じような気持ちでいた、ということだ。
「沖縄に出発する前日、お母さんはずっと私の隣にいて荷造りを手伝ってくれました。離れるのは寂しいけど、私には夢があることも知っている。だからお母さんは『行かないで』とは言えなかったと感じます」
夢や新たな希望に向かう人と、それを見送り後押しする人。両者の切ないけれど温かい感情が折り込まれているのが『Este Mar』なのだ。「離れていてもこの海でつながっている」ということを伝える曲でもある。
メリーさんは今年夏に、10曲入りのアルバムを発売予定だ。全て石垣島でレコーディングされた一枚は「ビートルズのブラックアルバムのようにノリやすい」とのこと。
ラテン音楽の華やかさと、晴れた日の海のような優しさを持ったメリー荒木さん。「大好きな沖縄を音楽でハグしたい!」と今日も活動している。
(津波 典泰)
メリー荒木
Instagram @meli.araki
『Este Mar』ミュージックビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=iArIhDHqlSc
(2022年4月14日付 週刊レキオ掲載)