大人に文学の面白さを伝えたい
1995年に発足した沖縄可否の会は「人間丸ごと個性」をテーマに、故・三上左京さんの指導の下、県内で舞台朗読を行ってきた団体だ。舞台朗読とは、小説やエッセー、詩を舞台上で暗唱する朗読のスタイルのこと。2020年に結成25周年を迎えた沖縄可否の会は、同年12月からジュンク堂書店 那覇店で「沖縄可否の会PRESENTS 本の時間~大人のための朗読会~」を定期的に開催している。その会場を訪ね、代表の宮城さつきさんに話を聞いた。
発足のきっかけは1995年、元俳優の三上左京さん率いる「東京可否の会」の朗読公演。舞台朗読に感動した沖縄の人たちから寄せられた「こういう朗読の学びの会が沖縄にもあったらいいな」という意見に応えるかたちで、沖縄可否の会は発足したという。それ以来、三上さんは毎月沖縄に来て直接朗読の指導をすることになった。可否の会の「可否」はコーヒーの意味。コーヒーを飲みながら文学に親しんでもらえたら、という思いが込められている。
三上さんの指導は、あくまでその読み手の主観を聞いて、最後にアドバイスをするというもの。そのため、淡々と読み上げる人、芝居に寄せた人など、それぞれに個性が生まれ、十人十色の朗読になる。
現在所属しているのは、年齢も職業もさまざまな18人の女性。「お母さんや奥さんではなく、その人個人として輝いてほしい」という三上さんの思いの下、女性がイキイキするための一つの手段として、「朗読を通して彩りのある人生を」をテーマの一つとして掲げている。
沖縄可否の会は、県内の学校や図書館、カフェなどで地道に朗読会を開催し、活動の場を広げていった。2012年には目標であった本島離島全41 市町村での舞台朗読を実現。21年9月30日までに、237会場、492回の朗読会を開催した。
困難を乗り越えて
20年に25周年を迎えた沖縄可否の会。25周年の舞台を予定していたところ、新型コロナウイルスの流行で公演を断念。また、同年4月に三上さんが急逝(享年78)する。三上さんは、それまでの25年間欠かさず毎月沖縄に通っていたという。度重なる不幸にも負けず、沖縄可否の会は同年末からジュンク堂書店 那覇店で「沖縄可否の会PRESENTS 本の時間~大人のための朗読会~」を隔月でスタートさせた。
「師を失い今は個々人での稽古が主ですが、朗読会の開催が近づくと、みんなで集まって舞台稽古をしたりしています」
一つの作品を暗記する舞台朗読は覚えるのに半年~1年ほどかかるため、おのずと年間で朗読できる量が限られてくるという。
「日々の生活に追われてなかなか本を読めない人たちも、会社帰りにふらっと立ち寄って『あ、無料だしちょっと聞いていこうかな』って感じで聞いてくれます。そこで『可否の会って面白いな』って思ってもらえたらいいし、自分たちにとっても学びになります」と宮城さんは語る。
語りの世界楽しんで
3月16日にジュンク堂書店那覇店で行われた「沖縄可否の会PRESENTS 第10回 本の時間~大人のための朗読会~」で、夏目漱石作「手紙」を朗読した青山喜佐子さんと、辻仁成作「雪のかまくら」を朗読した真栄里勝枝さんに舞台朗読の魅力を聞いた。
「同じ作品でも朗読する人によって個性が生まれる。可否の会では『読む』というより『語る』という感じを大切にしている。声で伝えるっていうのはいいなあ、と思う」(青山さん)
「語るっていうことは、その作品の世界を自分のものにして、自分を通して語る。そこが私にとっては魅力的。何度も何度も読んで自分の体を、声を、語りを通して、作品世界を表現しながら自分自身も表現する。まだ未熟ですけどね」(真栄里さん)
活字離れも進むなか、朗読を通して想像することの楽しさを伝える沖縄可否の会。
「三上先生の教えであったように、一人一人が輝いて作品に向き合いながら、それを見てもらえる場所を提供し続けていきたいな、と思います」と宮城さんは笑顔で話した。
(元澤一樹)
朗読・夢舞台 其の十七 悪女について
日時=4月8日(土)15:30~
会場=沖縄市民小劇場あしびなー
料金=前売り2500円
当日3000円
TEL 090-8912-5498
(2023年3月30日付 週刊レキオ掲載)