10年ぶりの新作で夢の共演
「かなさんどー」「遊び庭」「世果報でーびる」などの代表曲で知られる、沖縄民謡界の人気者「元(げん)ちゃん」こと前川守賢さん(63)が、5月17日(水)に新アルバム『ちゃーがんじゅう』をリリースする。新曲から沖縄民謡のスタンダードまで、守賢さんの「今の思い」を込めた全14曲入りの本作では、沖縄民謡界の大御所である古謝美佐子さんをはじめ、愛娘・華暖(かのん)さんとの共演も実現。歌三絃(さんしん)で沖縄を明るく照らし続けてきた守賢さんの一つの区切りともいえる作品に仕上がった。
「世界中の人々が笑顔にあふれ、いつも元気に過ごせますように」という思いを込めたという新作『ちゃーがんじゅう』は約10年ぶりとなるアルバムだ。
きっかけは、コロナ禍でファンや仲間とも会えず、レコーディングもできない日々の中、電話口から聞こえる「がんじゅう(元気)してるかー?」という声だったという。
「いつも使っている言葉でも、大切な言葉だったんだなあということに気付かされました。日常会話として使っていたけど、今は全世界の人々に言いたい。うちなーんちゅとしてのアイデンティティーを伝える言葉にしたいですね」と守賢さんは語った。
親子共演も実現
アルバムタイトルともなった新曲「ちゃーがんじゅう」では、親交の深いひがけい子さんと、守賢さんの愛娘である華暖さんが囃子(はやし)で参加している。
「おうちで遊びながら三絃を弾いていると『いつかお父さんの歌を歌ってみたい』とこぼしたんです。そこからいろんな歌を歌っているうちに囃子として参加することに。子どもたちの声っていうのは元気をくれるんですよ」
親子の共演は初の試み。華暖さんは収録曲「イービン小」でも守賢さんと共に歌で参加している。
今、残したい歌
今回のアルバムでは、聞きなじみのある沖縄民謡のスタンダードにもチャレンジした。
「昔歌というのは、ある程度年を重ねないとなかなか味が出てこない。『きみも年を重ねたら歌えるようになるさ』と言われたことがあり、還暦を過ぎた今がチャンスかなと」と守賢さんは笑みをこぼした。
収録した沖縄民謡のスタンダード曲「恋語れ」はまさに、嘉手苅林昌さんや金城実さんなど、偉大なる先人が歌い継いで来た楽曲。「これからは、三絃一つで聴かせていきたい」という守賢さんの強い覚悟が伝わってくる。
別の収録曲「デンサ節」は八重山民謡のスタンダードであり、守賢さんが三絃を始めたきっかけとなった曲だ。守賢さんは、自身の三絃の師匠である黒島裕市さんと知名定男さんと共に八重山で公演を行った際に、客席から聴き入っていた少年が、今回「デンサ節」で共演した新良幸人さんだったと振り返る。
「僕が『かなさんどー』でデビューしたのが21歳。さあこれからという時期に、師匠が病気で亡くなってしまった。コンサートをするときには師匠も呼ぶ予定だったんですが……。幸人から、僕が八重山で師匠と『デンサ節』を歌っていた(のを見た)という話を聞いて、一緒に歌いたいなぁ、と思ったんです」と守賢さん。
その他「かなさんどー」以来およそ42年ぶりとなる古謝美佐子さんをはじめ、饒辺愛子さん、田場盛信さん、徳原清文さん、金城恵子さんらとの夢の共演を果たした。
レコーディングは「みんなと生で歌いたい」という守賢さんの思いから、全編生演奏の一発撮り。久々の再会を喜び合うように、演奏をしている空気感が伝わってくる。
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「これまで前川守賢の見てきた世界を皆さんに伝えたい。元ちゃんの身近には本当にこれだけの方がいたんだね、ということを伝えたい。歌三絃で残してしかり。ものに書いてしかり。形にして残せればこんなにうれしいことはないと思います」とアピールする守賢さん。
7月にはリリース記念のスペシャルライブを控える。その思いをぜひ肌で感じてみてほしい。
(元澤一樹)
前川守賢 最新アルバム『ちゃーがんじゅう』
発売元・リスペクトレコード
TEL 03-3746-2503
アルバム発売を記念したコンサートが7月1日(土)にミュージックタウン音市場で開かれる。問い合わせはミュージックタウン音市場TEL 098-932-1949まで。
(2023年5月11日付 週刊レキオ掲載)