2017年4月、沖縄からアメリカの首都ワシントンD.C.近郊に移り住んで、約3カ月がたちました。学生時代の留学から数えるとちょうど20年ぶりのアメリカ暮らし。今のアメリカに目を白黒させながら、毎日過ごしています。
ここでは、新聞の記事だけでは書ききれない日々のこぼれ話や、うちなーんちゅ特派員が見た「アメリカの空気」を、お伝えできればと思います。
(ワシントン特派員・座波幸代)
「March for Truth(真実のための行進)」から見えること
トランプ大統領の就任から約半年。アメリカの政治は「混迷」「混沌」という言葉がぴったりです。
ロシアによる米大統領選干渉疑惑「ロシアゲート」の真実が見えない中、医療保険制度改革(オバマケア)見直しのために共和党が掲げた代替法案で無保険者が2200万人!も増える、という試算が発表されたり、大統領がテレビ番組の女性キャスターを品位のかけらもない言葉で中傷するTwitterを投稿したりと、気が重くなるニュースが連日報道されています。トランプ政権に対する抗議デモは全米各地で頻繁に行われています。
日本も、安倍晋三首相の「加計学園」問題の疑惑が晴れないまま、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が自民、公明両党によって強行採決されました。「共謀罪」は、ごく普通の市民の集会や表現の自由も規制するのでは、と懸念が広がっています。
米軍基地建設に反対する抗議活動や、さまざまな県民大会が幾度となく開催されてきた沖縄では、危機感をより強くしている人も多いと思います。「なんだか今の政治はおかしいと思うけど、こんな法律ができてデモとか集会に参加するのは怖い」「友達や知人と政治の話をするのはちょっと…」という方もいるかもしれません。
では、アメリカでは人々は何を思い、どんな集会やデモをしているのでしょうか。6月3日にワシントンD.C.で行われた「March for Truth」(真実のための行進)の様子をご紹介したいと思います。
この日のデモは、トランプ大統領のロシア疑惑に対する公正な捜査と真実を求めようと開かれました。ちょうど大統領がパリ協定離脱を表明した翌日。会場のナショナル・モールは、ワシントン記念塔(映画「フォレスト・ガンプ」でも印象的なシーンがありましたね)をバックに、晴れ時々曇りの蒸し暑さの中、青々と輝く緑の芝生にたくさんの人が集まっていました。
集会直前の会場は音楽が流れ、みなさん踊ったり、おしゃべりしたり、寝そべったり、写真を撮ったりと自由な雰囲気。そして、とにかく明るい!
1人1人持っているプラカードはオリジナルの言葉やイラストが描かれ、カラフル。同じのぼりを持った人は見当たりません。共通しているのは、
「Justice(正義)」
「Truth(真実)」
「Resist(抗議)」
「Equality(平等)」
「Democracy(民主主義)」
などの言葉がつづられていることでした。 星条旗をイメージした赤や青の服を着た人も目立ちます。プラカードやファッションに、ユーモアと風刺が効いていることがとにかく印象的です。
盛り上がる会場で若い女性2人に声を掛けてみました。メリーランド州から来たゾラさん(16)、サミーさん(15)姉妹。きっかけは、女性への差別的発言をしてきたトランプ大統領に対し、1人の女性の呼び掛けからワシントンD.C.をはじめ全米各地で多くの女性が立ち上がった「Woman’s March」に、ゾラさんが参加したことだそうです。
「すごくパワフルで、とても素晴らしい経験になったの」と、目を輝かせながら話すゾラさんに刺激を受け、サミーさんはデモには初めての参加。トランプ大統領になんと伝えたいですか、と聞くと「言いたいことはたくさんあって、いつも考えてるのに、あ~、でも今は言葉がなかなか見つからない」と少し考えてから、「Be Together」(共に)と答えてくれました。
会場には、老若男女、さまざまな人が集まっていました。ベビーカーを押しながらの家族連れも多く見掛けました。子どもたちやお父さん、お母さんもこんなメッセージを掲げていました。
ニューヨーク州から7時間かけて参加したワンダさんも、1月の「Woman’s March」に参加して以降、トランプ政権への抗議デモには必ず参加しているそうです。「トランプは彼の企業の利益のために政治をしている。そんな政治はとにかくおかしいでしょ」と話してくれました。
ほかにも、アイデアたっぷり、さまざまな表現方法で、大統領への抗議を伝える人々がいました。
舞台では、主催者や「Woman’s march」の共同議長を務めた女性らが次々と挨拶していました。「Woman’s march」も「March for Truth」も、Twitterからの1人の呼び掛けで広がっています。富裕層に利する税制改革や低所得者向けの医療費補助見直し、教育、環境問題、科学研究への予算削減。そして、イスラム圏6カ国からの入国を制限する大統領令など、トランプ大統領の政策に異を唱え、ロシア疑惑の解明、真実を求める訴えが次々と続きます。
その中で、ムスリム系の30代の女性の演説が印象的でした。米国の歴史やさまざまな人種差別問題を伝えながら
「正義、平等。私たちの先人達はさまざまな差別と闘い、これらの権利を勝ち取ってきた」
「トランプ政権の下でおびえて暮らしているかもしれない、隣の家の人のドアを叩いて、私たちはあなたの味方だよ、と伝えてあげよう」
「疲れている暇はない。声を挙げ、投票しよう」
などなど、地方選挙から自分たちの声を挙げていくことを呼び掛けていました。
そして、「私たちは100年後の世代に何を残したいか。2017年、2018年はどんな年だったと記憶していてほしいか。私は100年後の世代に、私たちが自由のために闘ったということを覚えていてほしい」という訴えが、力強く広がりました。
最後は、みんな笑顔で腕を組み、トランプ大統領のキャッチフレーズ「Make America great again」(偉大なアメリカを再び)をもじった、
「We are what make America great again」(アメリカを再び偉大にするのは私たち)
「This is what democracy looks like」(民主主義とはこういうことだ)
という言葉を訴えていました。
帰り道、声を掛けたシェリルさん(64)は「子や孫たちのために来た。今の政権は正しい方向に向かっているとは思えない。大統領には、あなたと違う考えにも耳を傾け、きちんと聞いた上で物事を決めてほしいと伝えたい」と語ってくれました。
沖縄戦を体験したお年寄りたちが、沖縄の米軍基地問題や日本が「戦前」に戻ることを危惧しながら、「子や孫の世代に同じ苦しみをさせたくない」と語ってくれた姿に重なりました。
日本、アメリカだけでなく、世界中で権力のおごり、暴力、戦争への不安が広がっているように感じます。
「おかしいことはおかしい」とそれぞれが声を挙げ、声を挙げた人を応援し合える社会を自分たちで築いていかないと、いつしか見えない不安や不満でお互いを監視し合う社会になってしまう。
だからこそ、年代も性別も人種もバックグラウンドも違う人々が、ソーシャルメディアを生かして自発的に集まり、語り、今の政権、政治に対する思いを「自分自身の言葉」で表現するパワフルな姿に、勇気づけられました。
とにかく明るく、風刺とユーモアたっぷりで、いい意味で個人主義。政治に対して怒り、きちんともの申す。そんなカラフルなアメリカのデモでエネルギーを充電し、「ふふふ、やっぱり最初におかしいと声を挙げるのは女性だ」と思いつつ、「あ、私も話を聞いた人たちに、沖縄のことをもっとちゃんと伝えればよかった」と少々後悔した帰り道でした。
(随時掲載)
座波幸代(ざは・ゆきよ) 政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。