マスターズ陸上に挑戦してみた。→夢中な大人に心打たれた。 「てみた。」8


マスターズ陸上に挑戦してみた。→夢中な大人に心打たれた。 「てみた。」8
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 何かに夢中になったり、新たなことに挑戦したりすることがめっきり少なくなった。でも、そんな大人でいたくない。

 7月30日に沖縄市で開かれた「第37回沖縄マスターズ陸上競技選手権大会」。陸上経験のない記者2人が1カ月半のトレーニングを積み、挑戦してみた。

練習初日

 6月16日。陸上クラブ「アスリート工房」の協力の下、練習スタート! クラブ代表の譜久里武さん=写真右端、名城星香コーチ=同左端=と気合を入れる。

 初日は体幹トレーニング。2日後、筋肉痛でロボットのように社内をギクシャクと歩く2人の姿が…。

大会まであと20日

 7月10日。ミニハードルを使って体の動きやリズムを確認する2人。だんだんと陸上の練習にも慣れてきた。

 「大事なのは誰かに勝つことではなく、自分に勝つこと」。譜久里さんの言葉がしみる。

いざ本番

 7月30日。大会当日。2人とも1カ月半の“突貫工事”で仕上げた成果を出そうと必死だ。

 鍛え抜かれた肉体に挟まれ、色白が際立つ松永。フォームだけはいっちょまえの大城。

 いやいや、大事なのは自分のベストを尽くすこと!

結果は…

松永

M50(男子50~54歳)60メートル
 11秒78 14位(出場14人)
 ※M24~90の全75人中71番目

M50・800メートル
 3分35秒57 3位(出場3人)
 ※M30~80の全29人中24番目

大城

W30(女子30~34歳)60メートル
 9秒68 1位(出場1人)
 ※W30~65の全11人中8番目


自信、恥、のち晴れやか 松永勝利
 

 マスターズ陸上大会に出場しないかと声を掛けられ、「いいよ」と即答した。実は少し体力に自信を持ち始めていたからだ。

 28年前の入社時は体重63キロと細身だった。だが連日飲んでは朝帰りの暴飲暴食を繰り返し、一時は96キロに! 検診では保健師から「このままでは早死にする」と生命の危険信号点滅を告げられる始末。本気で体質改善に向き合うようになり、5年前からは自宅から会社まで約5キロを徒歩出勤している。現在、体重は64キロ。人間ドックもほとんど正常値。だから「歩くのも走るのも同じだろう」と軽い気持ちで引き受けたのだ。

 アスリート工房で練習を始め、すぐに甘かったと気付く。体幹トレーニングをすれば全身が筋肉痛に襲われ、中学生や60代と走ればまるで太刀打ちできない。走るための体になっていないのだ。自分を恥じた。

 大会当日は、出発地点で並んだ同世代の男たちを見て愕然(がくぜん)とした。厳しい鍛錬を重ねてきた肉体だった。「これじゃポルシェと三輪車のレースだ」。そう思いながらも精いっぱい全力疾走したが、はるか前で全員がゴールを切っていた。

 収穫がなかったわけではない。己の精神と肉体を磨き上げ、走ることを諦めない人々の「輝き」に触れることができた。気付けば今、なぜか徒歩出勤の歩く速度が上がっている。
 

成長と青春、続く挑戦 大城周子
 

表彰台のてっぺん最高♪

 「いかに無駄のないフォームで効率良く走るか」。自分の体と向き合い、研ぎ澄ましていく経験は新鮮で、練習に通うのはとても楽しかった。夜風に吹かれながらのトレーニングに「青春だなぁ」とつぶやいてしまうほどに…。

 陸上クラブの仲間の存在も大きい。やれ「バネがあって短距離向きの脚」だの、「初心者にしては様になっている」だのと褒め上手ばかり。松永次長には悪いが、私は練習を重ねるごとに「結構いけるんじゃないか」とほくそ笑んでいた。

 言わずもがな、大会はそう簡単にはいかない。60メートルに出場して9秒68。30~34歳クラスの登録は私一人だったので自動的に優勝だったが、記録は30代から60代までの全出場選手11人中8番目だった。それでも自分では満足の結果だ。なにより、競技場で躍動する先輩たちの姿に感動した。人にどう見られるかなんて誰も気にしていない。自分の定めた目標に向かい懸命に走る、跳ぶ、投げる。とにかく皆、かっこよかった!

 当初16秒26だった私の100メートルの記録は練習3週間で15秒59に縮まった。味をしめ、実は企画が終わった今も挑戦を続けている。目標は14秒台突入だ。「何か新しいことを始めたい」と言いつつ踏み出せないあなた、案外その一歩は簡単なことかもしれませんよ。
 


90代、まだまだ現役

仲松榮一さん

 今大会最も歓声を浴びたのは、90歳以上のクラスで健脚を披露した仲松榮一さん(94)=今帰仁村、前大用安さん(92)=竹富町、亀濱敏夫さん(91)=宮古島市=の3人だろう。

 中でも最高齢の仲松さんは、帽子を後ろ向きにかぶって短パン姿で力強く駆け抜け、初出場とは思えない堂々とした走りだった。

 15歳で沖縄からブラジルへ移住し、日本人会の運動会などで大活躍だったという仲松さん。走り高跳びや走り幅跳びの跳躍種目が得意で、30歳で沖縄に戻った後も地域の大会に出場するなどしていたという。

 いまも午前と午後の2時間ずつ畑仕事に精を出すなど“現役”だ。1週間の練習で臨んだ初挑戦の結果は60メートルが21秒66、100メートルが36秒46。本人は納得がいかなかったようで、「訓練すればもっと走れる。明日から練習する」とかくしゃくとした声で意気込んだ。

マスターズ陸上とは…

 マスターズ陸上は日本の場合、18歳以上(学連登録者を除く)から参加でき、30~34歳、35歳~39歳など5歳刻みの年齢別で競う。アジア大会や世界大会には35歳以上であれば出場でき、参加に必要な記録設定や選考会はない。

 37回目を迎えた今年の沖縄大会は、606種目に県内外から304人がエントリーした。マスターズ陸上の問い合わせは沖縄マスターズ陸上競技連盟(勢理客友子会長)(電話)098(886)8054。

(2017年8月13日 琉球新報掲載)