テレビを見ていた子どもに「ジュゴンってどんな生き物なの?」と尋ねられたのですが、そういえば私もよく知らないな…と答えに困ってしまいました。希少な生き物のこと詳しく知ってみたいです! 調査員さんお願いします!
(中城村 水中伊達眼鏡)
ジュゴンですか、確かに名前を聞く機会は多いのですが、調査員も詳しく知りませんね。しかしとても関心がありますよ。
ということで今回は、県内のジュゴン保護に関わる団体、「ジュゴンネットワーク沖縄」の事務局長を務める細川太郎さんにお話を伺うことにしました。
実は牙がある
まず、調査員が聞いてみたのは、ジュゴンと同じ海牛目(かいぎゅうもく)に分類されるマナティーとの違い。昔、水族館の展示で「尾びれの形が違う」というのは見たことがあります(ジュゴンの尾びれはイルカに近い三角形で、マナティーは丸いうちわ形)。他にはどのような違いがあるのでしょうか。
「アゴの形・開き方に違いがあリます。ジュゴンは浅海に生息し、海底に生える海草を食べるのに特化したアゴの形に進化したため、アゴは下方に開きます」
と細川さんは教えてくれました。マナティーの仲間は、主に熱帯の大西洋沿岸域や河川などの湿地に生息しています。海底の海草、水面やその近くの陸生植物を食べるのに適したアゴの形に進化したため、アゴは前方に開くそうですよ。
また、マナティーの一部の仲間には前肢に爪がありますが、ジュゴンにはありません。一方、ジュゴンのオス(まれに老齢のメスも)には牙が生えるのですが、こちらはマナティーにはない特徴です。
昔は身近な生き物だった
ジュゴンは西大西洋からインド洋の暖かい海に分布し、沖縄周辺は生息域の北限にあたります。「ザン」という方言名もあり、琉球列島では昔からその存在が知られていました。人々とジュゴンの関わりについても細川さんに聞きました。
「沖縄各地の遺跡からはジュゴンの骨や、骨製品が出土しており、沖縄人はジュゴンを食用としたほか、残った骨で蝶型骨器や腕輪(沖縄貝塚時代)や、サイコロや矢じり(グスク時代)などを作っていたことが知られています。琉球王朝時代には、肉は貴重な保存食として、また信仰物としても扱われ、新城島の島民には、人頭税としてジュゴンの肉を王府に納めることが課せられていました」
へぇー! 食べていたとは驚きです。今では考えられないほど身近な生き物だったんですね。歌謡集『おもろそうし』や各地の民話にもジュゴンとジュゴン漁が登場するものがあるそう。
そんなジュゴンですが、現在沖縄近海では絶滅危惧種に指定されるほど個体数が減っています。細川さんは、明治・大正時代のダイナマイト漁での乱獲、沖縄戦の空襲、戦後の食糧難でさらに捕獲されてしまったことが大きな原因と見ています。
90年代初頭には、ジュゴンを見つけることは難しくなり、まれに混獲事故などでその存在が表に出る程度となっていました。有識者も、絶滅した可能性を示唆するコメントを新聞に出すほどでした。しかし、細川さんは97年に国頭村でジュゴンの姿と食事の痕跡(海草の食み跡)を見つけたことで、まだ生き残っていることを確信。その後、餌場のモニタリング調査や、混獲された時の放流方法の共有など保護のための活動を行ってきました。
「沖縄のジュゴンを保護することができるのは、今が最後です」
そう語る細川さん。最後は、ジュゴンが安全に生息できる環境を保全する必要を力説してくれました。昔から沖縄の人々と関わりのあったジュゴンですが、まだまだわからないことがいっぱいです。まずは多くの人が関心を持つことで、絶滅の危機から救うきっかけになれば、と感じた調査員なのでした。
〈参考文献〉
『ジュゴンとマナティー 海牛類の生態と保全』 ヘレン・マーシュほか著
東京大学出版会
(2021年10月28日 週刊レキオ掲載)