八重山には夕方17時半ごろになると決まって鳴き始めるセミがいるそうです。なんという種類のセミなんでしょう? どうして鳴く時間が決まっているのかも知りたいです。
(那覇市 ひざ大滝)
はい、夏場はセミの声に起こされて寝坊知らずの調査員です! でも夕方の鳴き声にはあまり注意を払ったことがないですね。それに八重山のセミということなので、沖縄本島にはいない種類かも。調査員には見当もつきません…。
ということで、お手上げ状態の調査員は、琉球大学の博物館「風樹館」を訪れました。助教・学芸員の佐々木健志さんは、石垣島でセミの生態調査もしているエキスパートです。
正体はタイワンヒグラシ
「夏の時期、石垣市米原のヤエヤマヤシ群落で17時ごろから調査を始めると、『ビョンビョンビョンビョンギュー』という鳴き声がちらほら聞こえてきます。17時半から18時くらいには多くの個体が一斉に鳴き“合唱“がピークに達します。そして19時前には鳴きやむ。タイワンヒグラシですね」
依頼者の情報からさっそくその正体を的中させた佐々木さん。タイワンヒグラシというセミなのですね。石垣島と西表島のみに生息する固有種であり、体長は34~52ミリで日本最大級のセミでもあります。
佐々木さんは、さらに遅い時間に鳴くセミがいると教えてくれました。
石垣島の於茂登岳中腹や西表島の森の奥深くなど、限られた範囲に生息するというイシガキヒグラシ。なんと森の中が暗くなる19時~19時半に盛んに鳴くそうです。「キンキンキンキン」という澄んだ高音で、「日本一きれいな声のセミ」とも言われています。
また、沖縄本島と久米島に生息する固有種・クロイワゼミが鳴くのは薄暮時。19時半~20時が合唱のピークです。こちらの鳴き声は「チュチュチュチュ」と、ちょっとヤモリのよう。
種類ごとに「鳴き分け」
ところで、セミが鳴く理由ってなんでしょう?
その答えは求愛行動です。オスのセミは鳴き声でメスにアピールしているのです。先に紹介した3種は、他の種類のセミが鳴かなくなる時間に求愛行動ができるよう適応したと考えられています。
「セミは鳴くためにすごいエネルギーを消費します。だからできるだけ効率的に鳴いてメスを獲得したい。自分のラブコールが他のセミの声にかき消されないよう種類ごとの『鳴き分け』があるんです」
そう説明する佐々木さん。加えて、①天候や時間帯で変化する日光の明るさ(照度)がセミの鳴き始めを触発する要因になっている。②天敵である鳥の存在は鳴き方の違い(クマゼミのように集団で鳴くか、アブラゼミのように単独で散発的に鳴くか)に影響を与えている、というポイントも教えてくれました。
「セミの種類ごとの鳴き声を覚えて、どのセミがいつ頃鳴くのか、他のセミが鳴いてる時はそのセミも鳴いてるかな? と聞いてまとめてみましょう。いい自由研究になりますよ」
最後に佐々木さんが夏休みにぴったりの提案をしてくれました。大人の皆さんもセミの「鳴き分け」に注意してみると、たくさんの発見と共にひと夏を過ごせるかもしれませんよ。
〈参考文献〉
林正美=監修
佐々木健志、山城照久、村山望=著
付録鳴き声CD
新星出版 1429円
(2022年7月21日 週刊レキオ掲載)