県内外から生き物好きの集まる部活。
校内には博物館も
大宜味村饒波に立地する県立辺土名高等学校。世界自然遺産に登録されているやんばる地域唯一の高校、という特色を生かし、自然環境科が開設されている。その中でも、より生き物や自然環境への理解を深めたい、という生徒たちが「サイエンス部」に所属。生物の飼育や調査、県内外での発表などに励んでいる。部を指導する顧問・東竜一郎さんと、部員たちに話を聞いた。
辺土名高校の校舎に入ると、エントランスに展示されている水槽群に目を奪われる。この一角は「辺高(へんこう)生き物博物館」と銘打たれており、2メートル近いオオウナギ、サンゴ礁の魚たち、在来の淡水魚などを飼育。やんばるの鳥類や哺乳類のはく製・標本なども展示されている。
水槽の掃除やエサやりを行っているのはサイエンス部の部員たち。迫力ある展示に見とれていると、副部長の吉本瀧侍(ろうじ)さんが「魚の世話は部の先輩たちから受け継ぎました」と声をかけてくれた。「同じ種類の魚でも大きさによってエサを変えているんですよ」と詳細に、いきいきとした様子で記者に話す。作業をする他の部員たちからも、大好きな生き物たちに囲まれながら、学ぶ喜びが伝わってきた。
学校の魅力を発信
現在、サイエンス部の部員は約40人。普段の活動では、部員の興味ごとに、いくつかのグループに分かれて活動している。「沖縄県青少年科学作品展」(主催・沖縄電力)では入賞の常連校となっている他、学外の発表や自然観察会にも積極的に参加している。
創部は2001年。環境科(本年度から「自然環境科」に名称変更)が開設されたのと同じ年だった。創部からしばらくは、わずかな部員数で活動を行っていたが、転機が訪れたのは14年。現在の顧問・東竜一郎さんが着任したことだった。
当時は学校が生徒数の減少に悩んでいた時期。サイエンス部員は少数ながらも、質の高い研究に取り組んでいたが、学校の魅力発信には至らなかったという。着任した年の学園祭、校外に学校をアピールできないか、と考えていた東さんが思い立ったのが先述の「生き物博物館」だった。
「一般受けするもので注目を集めたい、という気持ちがありました。そこで、私個人の水槽などを使い、生徒たちと生き物を展示したんです。『美ら海水族館に負けないものを!』と意気込んでいました(笑)」
手探りで始めた博物館は好評で、メディアでも取り上げられた。これをきっかけに、生き物博物館が学校の「常設展示」になることも決定。環境科には県内外から進学する生徒が徐々に増えてきたという。部員たちが多様な活動にいそしむ、現在のサイエンス部の雰囲気もこの頃から始まった。
自然遺産を担う力に
記者が学校を訪問した日は、部で飼育する在来ヤギや琉球犬の世話をする部員の他、大宜味村内のカカオ栽培に協力するグループが、ミーティングで活発にアイデアを出していた。東さんが引率し、日没後の林道などで生き物を観察する「今日の山」という活動も楽しげだ。また、国立研究開発法人 森林総合研究所などが行う調査にも協力している。
「学ぶだけでなく、知識を伝えることも大事に活動しています。やんばるが世界自然遺産に登録されたばかりの今だから、私たちに発信できることがたくさんあると思っています」そう話してくれたのは、部長の上原蓬(よもぎ)さん。部員は全員生き物好き。個性的なメンバーがそろっているが、学んだことを後輩や地域の人たちに伝えたい、という気持ちは共通しているそうだ。
東さんは、そんな部員たちを見守りながら「好きなことを続けたり、主体的に研究できるように成長してほしいです」と話す。
サイエンス部からは、卒業後も研究者や自然に関する仕事を志す学生が少なくない。世界自然遺産の地域を担う若い力が、今日ものびのびと育まれている。
(津波典泰)
辺土名高等学校
大宜味村饒波2015
TEL 0980-44-3103
(2022年12月8日付 週刊レキオ掲載)