地域のくらしと自然に出合う。
“ぶりでぃ”で作っていく博物館
名護博物館の新館が名護市大中にオープンした。名護・やんばるの自然と漁業、農業、製塩などの伝統産業、くらしと催事に関わる資料を間近に見ることができる。屋外の展示と体験学習の機能も強化された。新館準備に携わった職員と、博物館友の会のメンバーを取材、展示の魅力や旧館から大切に引き継いだことについて話を聞いた。
「名護・やんばるのくらしと自然」をテーマにした展示、活動を行う名護博物館。同市東江で旧館が開館したのは1984年。仕切りやケースを設けない、オープン型の常設展示室が特色となっており、県内外から来館者が訪れていた。
新館建設の構想・計画は2008年ごろからスタート。関係者らは用地や設計の検討を十分に重ねてきた。展示物の調整は今月2日の開館直前にまで及んだという。旧館との大きな違いは、敷地・建物ともにスケールアップしている点だ。屋外には中庭、古民家、散策道などを備え、やんばるらしい動植物にも出合える。やんばる全体を一つの博物館に見立て、来場者が各地へ出かけて学ぶことを推奨する「フィールドミュージアム」の考え方も新たに導入している。
小さなこだわり各所に
新館も従来のオープン型の常設展示を継承。展示制作では、旧館からの資料に現代的な手法を加えることで、「新しいけど古い」展示空間を目指したそうだ。3人の職員に「ここに注目してほしい」というポイントを尋ねてみた。
「思い入れがあるのはザトウクジラです」と話すのは学芸員・村田尚史さん。常設展示室に入るとすぐに目に入る2体のクジラの骨格標本は、迫力があり博物館の顔と言っていい。特にザトウクジラの骨格の入手には、国立科学博物館や千葉県館山市など、多くの関係機関、人々の協力があったという。旧館からの移動やワイヤーでの吊り下げにも苦戦し、いくつも逸話がある資料だ。
クジラの骨格標本の向かいにある写真パネル群、その名も「多様性の壁」を挙げたのは職員の田仲康嗣さん。職員たちが撮った名護の風物の写真が並ぶパネル。最大の特徴は、写真の入れ替えが容易にできる、という点だ。展示内容を固定せず「10年、20年と手を入れ続けられるように」との狙いがあるそうだ。
エントランスに設置された「年表」をアピールするのは、編集作業を担当した学芸員・山田沙紀さん。先史時代から始まる約4万年分の歴史を世界史的な出来事、沖縄の出来事、名護・やんばるの出来事の3つに分けて記述している。「小さなトピックこそ見てほしい。おもしろさやこだわりを込めています」と教えてくれた。
“ぶりでぃ”の理念
中庭や古民家展示では、植物を使った民具や玩具作りをしている人々に出会うことがある。「名護博物館友の会」のメンバーだ。年齢や経歴はさまざま。地域の自然や文化に関心を持った人々が集い、ものづくり、自然観察などを行っている。会員それぞれのペースを尊重し、好きな時に参加できる仕組みだが、博物館のイベントや展示作業を熱心に手伝う人も多い。名護博物館の運営になくてはならない存在だ。
友の会活動は、同館の理念である「ぶりでぃ」(方言で“群れ手”の意)に基づいている。市民活動の場として、開かれた博物館を目指し、「みんなの手で作り上げる」ことを開館以来大事にしてきた。施設内をじっくりと回れば、資料や備品に市民らの協力の痕跡を見つけることができるだろう。
「身近な場所にすばらしいものがいっぱいある。そういうことが伝えられる場所になっています」
取材の終盤、村田さんが同館の魅力をストレートに語ってくれた。来年は開館40周年。地域の情景と、自然や文化への愛着がここから次の世代へと紡がれていく。
(津波典泰)
名護博物館
名護市大中4-20-50
TEL 0980-54-8875
開館時間=10時~18時
休館日=月曜、その他不定休あり
Instagram @nago_museum
(2023年5月4日付 週刊レキオ掲載)