素人探偵は偏見の表れ!「チビチリガマ荒らし」の犯人探しを考える モバプリの知っ得![24]


素人探偵は偏見の表れ!「チビチリガマ荒らし」の犯人探しを考える モバプリの知っ得![24]
この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

9月12日、読谷村の「チビチリガマ」が何者かによって荒らされていることが分かりました。

チビチリガマは72年前の沖縄戦で地元住民が逃げ込んだガマ(洞窟)です。
1945年4月1日に読谷村から上陸したアメリカ軍は、すぐにチビチリガマへ到達。
アメリカ兵が入り口から「安心して出てきなさい」と呼びかけたものの、「アメリカ軍に捕まれば虐殺される」「鬼畜米兵」「生きて辱めを受けず」などと教え込まれていた住民たちはパニックになり、次々と集団死(自決)していきました。

それは、自殺をしただけでなく、母親が自分の手で子供を殺すなどし、ガマにいた約140名中80人以上が亡くなったと言われています。

一方、チビチリガマからわずか600mしか離れていない「シムクガマ」では、ハワイ帰りの住民が英語でアメリカ兵と対話し、1000人あまりの住民が自決することなく、助かっています。

出来事の悲惨さ、近くのシムクガマとの明暗などもあり、チビチリガマは沖縄戦を象徴する場所です。平和を願う人々にとって戦争の惨さを振り返る特別な場所です。

チビチリガマでは当時の遺骨や遺品などが残っているため、現在は遺族会の意思によって立ち入ることが禁止されています。

今年9月、そんなチビチリガマが荒らされたことが発覚しました。

遺骨や遺品、修学旅行生から送られた千羽鶴が壊され、散乱していたとのことで、「どうしてこのようなことをするのだろう? どうしてこんなことができるのだろう?」と深い悲しみとやり場のない怒りを感じた人も多いと思います。

そしてネット上では、16日に犯人が逮捕されるまで「あいつらがやったに違いない!」と犯人探しが始まりました。
ほとんどの人は犯人の推理が外れるのですが、平和を考えるべきチビチリガマを巡り、人々の間で分断と論争が発生し、悲しい気持ちにならざるを得ません。

「犯人は○○だ!」であらわになる敵意と偏見

チビチリガマが荒らされたという報道を踏まえ、荒らした犯人を推理し、糾弾する人たちが出てきました。

観察してみると、「襲撃したのは右翼団体だ」「犯人は外国人に違いない!」と推理結果はさまざま。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

推理をした人たちは根拠として、過去の出来事をあげていました。

例えば、1987年にはチビチリガマの「平和の像」が右翼団体によって破壊される事件が起きています。
そして2016年12月には、韓国籍の男が福島県内で仏像・地蔵100体以上を破壊する事件も起きています。

「右翼団体によるチビチリガマ襲撃」「外国人による仏具の破壊」をアナロジー(類推)とし、今回の事件と結びつけ、その団体や集団に対する怒りをぶつけたのです。

以前にもお伝えしましたが、インターネット上のコミュニティ、特にSNSでは自分と考えの近いひとたちが集まりがちです。
おそらく、SNSで繋がっている人たちが同じ様な推理をしているのを見た結果、具体的な証拠がないにも関わらず、「犯人は○○に違いない!」と断定する方向に流れていったのでしょう。

似た意見の人たちが集まることで、考えが偏ることを「エコーチャンバー現象」と言います。
今回の雑な推理からの犯人を決めつける一連の流れは、典型的なエコーチャンバー現象だといえます。

エコーチャンバー関連記事: あなたも陥っていませんか? SNSのエコーチャンバー現象 モバプリの知っ得![9]

16日に容疑者は逮捕されました。
逮捕されたのは本島中部に住む少年4人で、「肝試しのつもりでやった」と犯行の理由を話しているということです。
まだ少年たちの罪が確定した段階ではないですが、犯人を特定しようとネット上で繰り広げられた推理は結果、右翼団体でも、外国人でもなく、外れることとなりました。

「あいつらならやりそう」「やっぱり悪いやつらだ」と、情報がない状態で犯人を決めつけることは敵意や偏見の表れです。

こうしてネット上でデマとなり、犯人として誤認された人の身に危険が迫ることもあります。

沖縄県内でも、2016年12月に「クリスマスに美浜でテロが計画されている可能性があります。この人がテロリストなので気をつけてください」という文章とともに、沖繩に住むアフガニスタン人の男性の写真が拡散されましたが、この投稿はデマでした。

ネット上では「テロをしないように俺が退治する」などの暴行をほのめかす投稿も多数あり、テロリストの濡れ衣をきせられた男性は、名誉が毀損されると共に、襲われるかもしれない恐怖を感じたと思います。

ネットで広がるデマ情報 方程式と3つの対策 モバプリの知っ得![1]

この時、デマが広がった背景には「テロに巻き込まれたくない」という危機感とともに、外国人への偏見もあったとのではないでしょうか。犯人とされる男性が日本人だったら、ここまでデマは広がったでしょうか。

自分らが軽い気持ちで犯人として決めつけたことで、誰かの名誉を傷つけたり、危険な目にあわせるのは本当によくないことです。

「素人探偵」になって偏見を露わにするのではなく、冷静に経過を見届けながらやるべきことを考える方が世の中のためになるでしょう。

今回、チビチリガマを荒らした犯人は地元の少年たちでした。再発を防ぐためにも、私たち大人はどのようにして次世代に伝えていくべきでしょうか。何をすべきなのでしょうか。

あらためてここから、考えたいものです。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」9月24日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

http://smartphoneokoku.net/