思いに任せて一歩踏み出したら 働き方や生き方に対する価値観が大きく変わった話 ロックダウン世代になった就活生のリアル(7)


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琉球新報Style初となる、学生ライターによる連載が始まります。その名も「ロックダウン世代になった就活生のリアル」。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、インターンや採用試験もオンラインへ移行するなど、就職活動も今までと大きく様変わりしています。そんな新しい日々を手探りで進む学生の皆さんのリアルな感情や、葛藤などを体験記として記していきます。

こんにちは。風の時代の到来にわくわくしている、学生ライターの渡久地愛です。
前回の記事では、学生生活を振り返りながら就職活動を始めたものの違和感を抱き、「今しかできないことをしよう!」とWWOOF(ウーフ)をしに北海道へ旅立ったところまで書かせて頂きました。今回は、私の価値観を大きく変えることとなったWWOOFでの経験を書いていきます。

「レールは自分で作ったっていい! やりたいことをやりつくす就活に」ロックダウン世代になった就活生のリアル(3)
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1232336.html

WWOOFとは、金銭のやりとりを介さず、有機農家さんのお手伝いをするウーファーと、ウーファーに住居や食事を提供するホスト(主に有機農家)が、生活を共にしながら交流するという世界中で行われている取り組みです。登録費と交通費さえ払えば日本全国はもちろん、世界中の農家さんのお家に無料で泊まらせてもらえる(しかも食事付き!)という、なんともお得な仕組みになっているのです!

数年前のある日、たまたま入った本屋でWWOOFをテーマにした本に出会い、その時から「いつか、世界のどこかでWWOOFしたいな〜」という思いを持ち続けていました。食や農業に興味があったこともあり、「時間のある今しかない!」と、ステイ先を探していたら大好きな北海道でWWOOFをすることが決まりました。2週間後には沖縄を飛び出し、札幌へ到着!そこから3時間、バスや電車を乗り継ぎ、大自然に囲まれた町の有機農家さんのお宅で、初めてのWWOOF生活が始まりました。

大自然に囲まれた農場でお手伝い

滞在中は毎朝5時半に起き、大自然の中で6時間ほど作業して、夜10時に就寝という超健康的な日々を送っていました。作業内容は、トウモロコシやアスパラガス畑の雑草取り、ニンジンの間引きやラベンダースティック作り、ニンニク干し、小豆の選別、花ニラ・ラズベリー・ブルーベリーの収穫など様々で、その時に必要な作業をお手伝いさせてもらいました。太陽の下、同じ姿勢で何時間も農作業をするのはとても大変で、最初の数日は体力的にも精神的にも疲れ切って、夜9時には就寝していました。

WWOOF生活での1番の楽しみは、料理上手な奥さんが作る豪華なご飯!食卓に出てくる野菜や調味料、ジャムなどはどれも農家さんの手作りで、米や肉、海鮮は農家さんの知り合いから頂いたもの。新鮮でびっくりするほどおいしい食事に、毎日舌鼓を打っていました。

ある日の朝ごはん

ご飯を食べながら、農家さんといろんな話をしました。特に印象的だったのは、食や農業にまつわる衝撃的なお話でした。例えば、ハネ野菜(規格外として出荷されない野菜)の話。ここ数年、農家さんが手間暇かけて、愛情たっぷりに育てた野菜が昔より売れにくくなってきているそうです。有機農家さんは、なるべく農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てています。そのため、野菜が成長するのに時間がかかったり、形が歪んでいたり、サイズもばらばらだったりします。

だからといって味や栄養価が劣ることはなく、とてもおいしいし、皮まで安心して食べられます。しかし、サイズや見た目の良さで野菜を選ぶ消費者が多いため、流通の過程でハネられる野菜が大量に出てしまうそうです(ちなみにこのハネ野菜は、フードロスにつながる大きな要因の一つにもなっています)。

目からうろこだったのは、種と農薬の話。日本の市場に出回っている野菜のほとんどは、品質や味、効率性を良くするためといった理由からF1種※1という種から作られています。しかし、これらF1種からできた野菜は一代かぎり。採った種を植えても親と比べて同じ品質になりにくく、農家は毎年種を買う必要があります。その一方で古来種・固定種と呼ばれる、地域で古くから栽培されてきた種があります。これらは、一つの種から何世代にも渡って同じ実をつけるそうです。

また、従来の農業で育てられた野菜や果物は農薬を使って育てることが多いのですが、農薬を使うと土壌が汚染され、そこからにじみ出た成分が川や海に流れて汚染されていきます。そして、汚染された環境で育ったものを、人間が食べることになります。お世話になった農家さんは、たからこそ農薬や除草剤は使わないし、家庭で使う洗剤を自然由来のものにしたり、ごみやマイクロプラスチックをなるべく出さない工夫をして、環境に配慮した生活をされていました。

近年マイクロプラスチックによる環境問題が多く取り上げられていますが、農薬の使用による環境汚染についてはあまり触れられていない気がします。サイズや値段、見た目の良さを求めるあまり、人体への影響、さらには地球環境や動物への影響が無視されている。この現実を知り、自分の今までの消費者としての行動を反省しながら、何を買って何を食べるのか、しっかり考えるようになりました。

農家さんが教えてくれたのは、ここに書き切れないほどたくさんあります。そのどれもが、就活をあのまま続けていたら、永遠に知ることができなかったんじゃないかと思うような大切なことばかりでした。WWOOFがきっかけで、私の生活は大きく変わりました。自分が食べるものは自分で作れるようになりたくて、最初の一歩として家庭菜園を始めました。今は、アボカドやブルーベリー、ハーブ、葉野菜、ラディッシュがすくすくと育っていて、成長を見守るのが毎日の楽しみになっています。また、お金の許す範囲で地球に優しいものを選んで買うようにしたり、プラントベースな食事を取り入れてみたり、自分の頭や五感をしっかり使いながら生活していると、いろんな発見があってとても楽しいです。

今はまだ、有機野菜を買ったり、環境に負荷をかけない生活にしようとすると、コストがかかるし選択肢が限られていたりで、学生の身分としては生活全てをすぐに変えることはできません。しかし、多くの人が食や農業、地球を取り巻く問題を知り、自分の頭で考えて行動を少しずつでも変えていくことで、人や地球に優しい方法で物を作る人や会社が増えていくのではないでしょうか。そんなビジネスで世界が回るようになれば、きっと人間も動物も地球もハッピー。

そんな世界が1秒でも早く訪れるように、私はこれからどうしていこうか。いろいろ考えていたら、就活がますます難しくなります(笑)。でもゆっくりでもいい、焦らずに、情報に流されずに、自分の信じた道を歩いていこうと思います。

※1 F1種…遺伝学で「第一世代」を意味し、好ましい形や性質を持つ異なる品種を人為的に交配させ、作り出した雑種。在来種よりも①収穫量が多い②成長が早い③均一の形④害虫に強い―など優れた特徴を持つ。ただ一代限りで、種ができなかったり、採った種を育てても親とは違う性質になったりする。

プロフィール 
渡久地愛。
信州大学人文学部心理学科4年。好きなことは旅、料理、家庭菜園、Netflixを見ること。2年間の休学を経た現在、一周回って人生迷子。有機農家でのボランティアがきっかけで食に目覚め、何を買うか、何を食べるかにこだわりを持つ。最近のプチ自慢は、ハリセンボンと海辺をお散歩したこと。