新型コロナウイルスの感染拡大により私たちの日常は一変し、働き方にも大きな変化が訪れました。テレワークやオンライン会議の導入により、時間や場所に縛られない働き方が加速され、通勤や移動といった無駄な時間の削減などの効果も見られるようになりました。
一方、これまでのように対面でやりとりする機会が減り、職場内でのコミュニケーションが希薄になっていると感じている人も少なくありません。
今回は、コロナ禍におけるゆんたく(雑談)の必要性とその取り組み方について、ご紹介したいと思います。
◇執筆者プロフィル
波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント。
子育て・介護と仕事との両立に苦しんだ経験を踏まえ、2016年に起業。
「働く人のモチベーションを組織の活力へ!」をテーマに、沖縄の企業や個人を対象としたコンサルティングを手掛けている。
那覇市首里生まれ。1男1女の2児の育児中。
ゆんたくが減るとどうなる?
全国のビジネスマン230人を対象にした「テレワーク下の雑談」に関する実態調査(2020年9月株式会社スコラコンサルト発表※)によると、「出社時と比較して、職場のメンバーとの雑談機会は減りましたか?」との質問に、「かなり減った」という回答が64.3%を占め、「少し減った」20.4%を合わせると、雑談の機会が減っていると感じている人は8割以上に上りました。「増えた」と回答した人は3.0%、「あまり変わらない」と回答した人は12.2%でした。
続いて、「職場のメンバーとの『雑談』が減って不安に思うことはありますか?」との質問に、「かなり不安」20.0%、「少し不安」49.6%と回答し、不安に思う人がおよそ7割に上ることがわかりました。「あまり不安はない」と回答した人は21.7%、「ほとんど不安はない」と回答した人は8.7%でした。
この調査から、雑談が減ることによる心理的な影響から、不安が高まることが分かりました。
このデータは「テレワーク下の雑談」というテーマでの調査であるため、全ての働く現場が同じ状況であると断定はできませんが、実際私が関わってきた沖縄県内でテレワークをしていない企業でも、
- 仕事中に気軽に会話をすることができない
- 社員同士の飲み会や食事会ができず親睦を深められない
- ランチ中でもゆんたくできない
という理由で、スタッフ間のコミュニケーション機会が減ったと感じている人が多く見受けられます。そうした影響で、孤独感を感じたり、不安に思ったりしている人も多いと感じています。
さらに「相手の状況が把握できず、気軽に質問しにくい」など、コミュニケーション不足が原因で以前と比較して仕事がやりにくくなったという声もよく耳にします。
感染予防のためのソーシャルディスタンスが、物理的な距離のみならず、人と人との心の距離間にまで影響を及ぼしていることが分かります。
ゆんたくがもたらす3つの効果
従来の組織では、「仕事中の私語はよくない」という風潮が見受けられましたが、最近は職場での「ゆんたく(雑談)」が注目されています。そこでゆんたくが組織にもたらす影響をご紹介します。
社員一人ひとりの存在意識が高まる
職場でのコミュニケーションが希薄で、日々のオペレーションをひたすら機械的にこなすという組織では、何のために自分はここで働いているのかという存在意義を社員が見失う傾向にあります。ゆんたくを通して自分のことを知ってもらい、仲間に対して関心を持つことで、存在意義が増して「自分はこの組織のメンバーなんだ」という帰属意識が高まります。
仕事の質が高まる
改まった会議や面談という場ではなく、ゆんたくの中で、仕事に対する質問やちょっとした困りごとなどを解消しているというケースも多くあります。
私も前職時代、「前任者はこの仕事をどんな風に進めていたのかな」と思っていた時にたまたま休憩室でその人に会い、気軽に質問をした経験があります。
「これでいいのかな」と思いながら仕事を進めている時に、ざっくばらんな会話があると、気軽に困りごとの共有ができて、進め方のズレを早めに修正することができるのです。
新たなビジネス創出の機会が生まれる
日々のオペレーションの中では、その対応や処理に集中しているため、新しいアイディアを思いつく余裕がありません。一人で頭を悩ませて生み出すアイディアももちろんありますが、多くの場合は他者と何気ない会話をしている中で、「それって面白そう!」「次の企画に生かせるかも!」と言ったひらめきが生まれます。
ただのゆんたくと思っていた会話が、大きな改革につながることもあります。
仕事中にゆんたくばかりしていて業務が遂行できないということは考えものですが、多くの場合そうはなりません。ゆんたくが業務遂行を阻害するというデメリットよりも、職場での存在意義や仕事への動機付けを高めて高業績に導くというメリットの方が組織に大きな影響を与えます。
コロナ禍でゆんたくを促す方法
ゆんたくの効果が理解できても、このコロナ禍において「ゆんたくしなさい!」と積極的に号令をかけるわけにもいきません。では、どのようにゆんたくを促せばいいのでしょうか。
いろいろな手段はあるかと思いますが、私は、一人ひとりの意識レベルにだけ任せるのではなく、組織の中でちょっとした仕組みとして導入することをお勧めします。
例えば私のクライアント法人では、新人社員の定着を目的としたゆんたくを導入しているところがあります。直属の先輩だけはなく、他の部署の先輩とも気軽に話ができるように、毎月1回、新人社員と複数の先輩社員をグループにして、業務中、休憩室でお菓子を食べながらゆんたくをするという取り組みです。
そのゆんたくのネタはサイコロを振って決めるパターンで、サイコロの目には例えば、「好きな食べ物は?」「好きな音楽は?」「最近ハマっていることは?」と言ったテーマが書かれています。あまり話したことがない先輩を前に最初は緊張していた新人社員の皆さんも、このゆんたくを重ねることでコミュニケーションが活発になり、普段の業務中でも気軽に他部署の先輩たちと連携が取れるようになっています。
また、別の組織では社内掲示板を活用して、コミュニケーションを促しています。
「お勧めの映画教えて!」という質問をボードに貼り付けると、複数の同僚から「〇〇がいいよ!」「感動したいなら〇〇!」と言った回答のカードが貼付されます。そのボードを通して、必然的にゆんたくが生まれ、コミュニケーションが図れるようになります。
他に、テレワークを実施している企業では、定例の業務ミーティング後10分間に「ゆんたくタイム」を設定しているところもあります。できるだけ全員が発言するというルールを設けて、「最近あった嬉しかったこと、感動したことをシェアしよう!」というお題に沿って、会話を広げています。
このように、ちょっとした仕組みを導入することで、ゆんたくが生まれやすい環境が作られます。
ゆんたくしよう!
変化のスピードが激しい中、これからの組織に求められるのは、社会の流れに順応しながら変革し挑戦し続けることです。
そのためには、職場の一人ひとりが自分事として組織活動に関与し、忌憚なく発言できる職場づくりが不可欠です。
ゆんたくは、まさにそうした職場づくりの潤滑油になります。
コロナ禍だからこそ、職場のメンバーが孤独感や孤立する不安に苦しむことがないように、ゆんたくを通して心の距離を近づけていきましょう!そのことが、チームワークの質を高め、業務の生産性向上にもつながっていくはずです。
【執筆者プロフィル】
波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント
那覇市首里出身。株式会社JTBワールド、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローを経て、2016年Cosmic Consulting設立。
【働く人の生き生きを組織の活力へ】をビジョンとし、主に働き方改革や人材定着、人材育成プログラム構築、組織開発など、人事面から変革を起こすための組織活性コンサルティングを行っており、マスコミ、福祉法人、ホテル業界、飲食業界等、多種多様な業界に対してのべ100社以上のコンサルティング実績を持つ。
コズミックコンサルティングのHP→ http://kozumi-naminoue.com/koz-landing