フレッシュなゴーヤーこの時季もおいしく
ビニールハウスで育てたゴーヤーが出荷のピークを迎えている。島野菜の代名詞であるゴーヤーの旬は本来夏。しかし全国的な認知度も高まり品種改良も進んだ現在、この時季にも安定した量が作られている。南城市玉城志堅原で農家を営む大城豊次さんの畑では、今年1月から3月初旬の間ですでに700㌔以上を出荷したそうだ。ゴーヤー栽培に関する努力や工夫、農業のおもしろさについて大城さんに話を聞いた。
自宅近くに約700坪の畑を持つ大城さん。3月初旬の晴れた日、ゴーヤーを栽培するビニールハウスをのぞいてみると、大城さんと共に妻のルリ子さん、義理の娘の睦美さん、そして那覇市内にある、就労継続支援A型の事業所「心笑(ここえ)」から派遣されてきた3人の利用者が人工授粉を行っている最中だった。
雄花と雌花、2種類の花がつくゴーヤーは、実をつけるのに欠かせない受粉を人の手で助ける必要がある。ハウス内のうねを歩きながら、雄花の花粉を雌花に付けていく地道な作業だ。無事受粉が成功すれば雌花の後部が実に成長する。
農家は作物の医者
大城さんは、人工授粉をしながら葉やツル、成長中の実など、植物全体の様子に目を配っている。病気の症状が出ていないか、有害な虫などがついていないか、水の不足や過多が起きていないか…、良い品質の作物を収穫するために気をつけないといけない項目はいくらでもある。
「この作業は人間の健康診断と一緒。農家は作物の医者でもあるんだよ」
大城さんはおだやかな口調でそう教えてくれた。
大城さんのハウスで3月に収穫されるのは「汐風(しおかぜ)」という品種。冬季のビニールハウス栽培に適するよう改良されている。毎年旧暦の1月1日、15日の3日前になると開花量が最大になるそうだ。収穫は受粉から約2週間後。ハウス栽培であっても、旧暦や日照時間のサイクルに合わせて肥料を与えたり、消毒を行うと一番効果を得られるというから興味深い。
収穫の目安になるのは実が「缶コーヒー」程度の太さになったとき。実の一番太い部分を握ってみて、親指と他の指がつかず、数㌢の隙間ができれば、ちょうどいい大きさだ。20~25㌢程度で箱詰めのしやすい「Lサイズ」として出荷できる。
夢中になれる仕事
ビニールハウス内では「心笑」から派遣されてきた内間永之さん、新垣瞬さん、中川夢時さんも大城さんらと時折談笑しながら、作業を続けている。
継続的に就労継続支援施設の利用者を受け入れている大城さんだが、3人の農業に対する熱意には関心させられることも多いそうだ。「野菜を作るのがとても好きで『土曜日も来ていいですか?』って聞いてくるんですよ。(利用者が働く日は決められているので)それはさすがに断るけどね」とうれしそうに言う。食べ方も研究しており、畑で収穫した野菜を分けた際には、漬物にして後日持参。昼時間に皆に振る舞うこともあったとか。作物を収穫することの達成感、土や畑の生き物と触れ合うおもしろさが彼らを農業に夢中にさせているようだ。
大城さんのビニールハウスでは、今月末より「汐風」 を暑い気候に適した別の品種に植え替え、6月ごろまで栽培を続ける予定だ。「昔のゴーヤーは食べられないくらい苦いのもあったけど、最近の品種はとても食べやすくなっていますよ」大城さんは笑顔で手塩にかけた作物をアピールする。
冬から春、体調を崩しやすい季節の変わり目には、新鮮なゴーヤーで栄養補給してみてはいかがだろう。
(津波 典泰)
(2021年3月18日付 週刊レキオ掲載)