自由にのびのび演奏楽しむ
2009年の結成以来、夫婦でアマチュア活動を続けるアコースティック・ユニット「D@LL(だぁる)」。夫・Yoshito(ヨシト)さん(55)の奏でる繊細なギターの音色に、妻・HIRO(ヒロ)さん(41)の伸びやかなボーカルが重なる演奏は、人々の胸を打つ力を持っている。県内のイベントやライブハウスでのステージが評判を呼び、口コミでじわじわと人気が広まっている。
一昨年、記者が初めてあるイベントでD@LLのステージを見た時には、その迫力に驚いた。
声量豊かで艶のあるHIROさんのボーカルに、透明感のあるYoshitoさんのギター。夫婦ならではの、息のぴったりあった演奏に引き込まれた。
カバー曲とオリジナル曲が披露されたが、特に印象に残ったのは、HIROさんが作詞、Yoshitoさんが作曲を手掛けたオリジナル曲。ストレートに思いをつづった歌詞が、演奏の力とあいまって胸に響いた。
実力派の二人
D@LLのボーカル・作詞担当のHIROさんこと大司紘子(たいし・ひろこ)さんは、10代のころ、沖縄タレントアカデミーに所属し、プロの世界に足を踏み入れた。
95年、高校1年生の時、第19回長崎歌謡祭でグランプリ受賞。歴代の受賞者には、夏川りみさん、石嶺聡子さんらが名を連ねる新人歌手の登竜門だ。同じ回にはデビュー前の椎名林檎さんも出場していたという。
その後ゲームソフトの挿入曲、声優などを担当。99年には新人発掘オーディションでグランプリを受賞し、「Syrup(シロップ)」という4人組グループでデビューした。しかし、当時の芸能界では、本当にやりたかった歌以外の要素も求められ、肌に合わないと感じたHIROさんは、芸能界から距離を置くようになった。
ギター・作曲担当のYoshitoさんこと大司義人(よしひと)さんと出会ったのも10代の頃。小学校からピアノ、ギター、エレクトーンを習い、中学生でバンド活動を開始したYoshitoさんは、伝説的バンド「六人組」にキーボードで参加するなど、バンド活動に熱中。その後、沖縄タレントアカデミーでの歌唱指導、音楽理論の講師、CM・演劇挿入曲などの制作を手掛けていた。
「その時、彼女が書いた詞に曲を付けてほしいと依頼された」とYoshitoさんは振り返る。その時の曲は、今でもD@LLのレパートリーとなっている。それからしばらくして二人は縁を深め、2003年に結婚した。
口コミで人気広まる
結婚後数年は二人で演奏することもなかったが、09年に夫婦でD@LLを結成。
きっかけはYoshitoさんが同級生主催のチャリティーライブイベント「GENNO 65(ゲンノーロクゴー)ライブ」に参加したこと。ライブを見たHIROさんが「またステージで歌いたい」という思いを刺激され、結成と翌年のイベントへの出場を決めたという。
最初のうちは、年に1回の同ライブに出場する程度だったが、ステージを見た人から声をかけられ、次第に県内のイベントやライブハウスで演奏する機会が増えた。口コミでファンも広がり、コロナ前には月1回ほどのペースで県内各地のライブハウスやイベントで演奏を披露するまでに。コロナ渦中の現在は、那覇市の喫茶室・アルテ崎山、中城モールを中心に活動している。アルバムは発表していないが、Facebookには過去のステージの動画が多数掲載されている。
現在、二人は夫婦で学童保育に携わっており、音楽はアマチュアとして余暇で楽しむ。
Yoshitoさんは「劇艶おとな団」の劇中曲を毎回提供しており、6月11日(金)・12日(土)に予定している第18回本公演の音楽も手掛けるなど、幅広く活動する。
「自分たちがやりたいように楽しんでやっています。音楽という趣味を共有することで、共通の知り合いや仲間も増えました」(Yoshitoさん)、「また歌うようになってから、充実している」(HIROさん)
D@LLの演奏がストレートに心に響くのは、実力ある二人が、自然体で音楽を楽しんでいるからなのだろう、とインタビューの中で感じた。
(日平勝也)
(2021年5月27日付 週刊レキオ掲載)