<社説>日銀総裁候補所信聴取 物価安定へ対話力発揮を


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 日銀総裁候補の植田和男氏が衆院の所信聴取に臨み、金融緩和の継続を表明した。総裁候補になり、初めて公式の場で発言する機会とあって市場が注目していた。まずは急激な変化を避ける無難な滑り出しとなった。

 ただ聴取では10年間にわたる大規模緩和策に「副作用も生じている」と指摘した。「副作用」のうち深刻なのが歴史的な物価高だ。物価を安定させるためにも、政策修正に当たっては市場との対話を重視し、国民に丁寧な説明をするよう植田氏に望む。
 黒田東彦総裁が始めた大規模緩和策は景気回復と安定的な物価上昇という目的があった。しかし、どちらも実現していない。逆に金利を極めて低い水準に抑え込んだ弊害として、金利の高いドルが買われ、急激な円安を招いた。
 ロシアのウクライナ侵攻による資源高と重なり、円安による輸入物価上昇が現在の物価高の背景にある。
 物価上昇率が4%を超す現状について、植田氏は食料や資源の価格高騰に伴う「一時的な上昇」とし「2023年度半ばにかけて2%を下回る水準に低下する」と予測した。
 だがウクライナ情勢は終息への見通しが立たず、予測が実現するか不透明だ。
 植田氏は「賃金増を伴う形で安定して物価が2%上昇する経済の好循環にはなお時間を要する」と語った。好循環が見通せるようになれば「金融政策の正常化に踏み出すことができる」とも語っている。
 好循環を生み出すためにも政策修正は避けられない。ただし利上げは住宅ローン金利の上昇や企業の借り入れコスト増加など景気に冷や水を浴びせる恐れもある。
 国民生活に直結する課題だけに、混乱を回避しつつ「緩和策の出口戦略」を探るのが植田氏に課せられた重要な役割だ。4月の就任以降、中長期的な視野をもって取り組んでもらいたい。
 就任すれば戦後初めて学者出身の日銀総裁となる植田氏は、1998年から2005年まで日銀審議委員を務めた。ゼロ金利政策や量的緩和政策導入に当たっては理論的支柱となった。海外経験も豊富で米国では米連邦準備制度理事会(FRB)元議長、欧州中央銀行前総裁らと同時期に学んだ。首相が望む主要国中央銀行トップとの緊密な連携の実現や内外への発信力の高さを見込まれての起用だ。
 黒田総裁の10年間は物価上昇目標が達成できなかっただけでなく、無制限の国債買い入れで財政規律をゆがめたという批判もあった。直前まで否定しながら不意打ち的にマイナス金利導入を決めるなど、市場との対話を軽視し信用を低下させた責任もある。
 「植田日銀」の船出に当たっては、市場への発信力も試される。物価安定目標の達成へ「総仕上げの5年間」と位置付けた植田氏には「物価の番人」としての役割も果たしてもらいたい。