<社説>首相ウクライナ訪問 異例の行動 国民に説明を


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 岸田文雄首相がウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。「連帯と揺るぎない支援」を約束し、北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じて、殺傷能力のない装備品3千万ドル(約40億円)相当を提供すると伝えた。

 日本の首相が紛争地に入るのは極めて異例だ。今年2月にはバイデン米大統領がキーウを訪れており、岸田首相は5月に開催される先進7カ国首脳会議(広島サミット)前の訪問を目指していた。首相訪問によってG7の首脳は全てウクライナ入りを果たしたことになる。
 「電撃」とも評されるウクライナ訪問に対する国民の評価は分かれよう。首相や閣僚が国会開会中に海外訪問する場合、国会の事前承認を得るのが慣例だが、安全確保の観点から今回、この手続きを踏まなかった。帰国後、岸田首相は国民に対し、ウクライナ訪問の理由を説明しなければならない。
 ゼレンスキー大統領の会談で支援の継続を約束し、G7議長国としての存在感を示すことになった。国際社会の中で一定の役割を担うことが日本の国益にかなうとの観点もあろう。支持率低迷が続く岸田政権の浮揚につなげたいとの思惑もうかがえる。
 しかし、ウクライナ訪問が日本の外交姿勢として望ましいのか疑問が残る。中立を保っている国々は日本の行動とは距離を置く可能性がある。
 ロシアによる1年前のウクライナ侵攻は明らかな侵略行為である。罪のない一般市民に犠牲を強いた残虐行為は国際社会から厳しく非難されている。岸田首相とゼレンスキー大統領の共同声明で、ロシアの戦争犯罪と残虐行為に対し、国際法に従って責任を追及すると強調した。ただ、戦闘を続ける両国に対し和平を促すことが日本の役割ではないのか。
 岸田首相のウクライナ訪問に先立ち、ロシアを訪問した中国の習近平国家主席がプーチン大統領と会談し、戦略的協力関係を誇示した。ウクライナ侵攻についても議題となった。両国首脳の会談に米国は警戒感を強めており、国際社会の分断が際立っている。岸田首相のウクライナ訪問によって分断が一層深まることを危惧する。
 両国の戦闘を終わらせるため、米国と中国が共同歩調で停戦を呼び掛けることが必要だ。そのことが侵略行為を続けるロシアへの効果的な圧力になる。日本の役割は分断する国際社会の片方に身を置くのではなく、両国の橋渡しとなることである。日本国憲法を持つ平和国家として和平への道筋をつくることが日本が目指すべき外交姿勢だ。
 5月の広島サミットはウクライナ侵攻が主要テーマとなる。ロシアを非難するだけではなく、国際社会の融和を議論する場にしてほしい。そのことが被爆地を会場としたサミットに求められている。