米軍の沖縄本島上陸からきょうで78年になる。この日から激しい地上戦が展開され、20万人余の命が失われた。私たちは悲惨な沖縄戦体験から平和の尊さを実感し「軍隊は住民を守らない」という教訓を得た。
しかし、平和を希求する県民の思いとは逆の方向へと日本は突き進んでいる。
南西諸島で展開されている抑止力向上を名目とした軍備増強である。「力による均衡」が破綻し、予期せぬ武力衝突が起きたとき、沖縄は重大な危機にさらされる可能性がある。そのことに県民は強い不安を抱いている。
県議会が賛成多数で可決した「平和外交意見書」は県民の危機感を反映したものだ。政府が安全保障関連3文書で示した防衛力強化の方針に対し、抑止力の向上ではなく外交と対話による平和構築を求めるという内容である。採決では自民が反対し、公明と無所属の1人が退席した。
安保関連3文書に対し、都道府県議会が懸念を示した意見書を可決したのは初めてとみられる。沖縄を二度と戦場にしてはならないという意思の表明であり、武力ではなく、外交と対話による脅威の克服を政府に求めた。その趣旨を支持する。
意見書は「軍事力増強による抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずる危険性が増すことへの懸念は拭えない」と危機感を表明した。さらに「沖縄が再び『標的』とされる」という不安が県民に広がっているとも指摘した。沖縄戦体験を踏まえたものであろう。
政府が閣議決定した安保関連3文書は専守防衛を軸とした日本の防衛政策を転換し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した。重要な戦略拠点に位置付けられたのは沖縄である。県民は米軍基地負担に加え、加速度を増す自衛隊基地増強の負担を強いられることになる。有事の際には危機と直面する。
安保関連3文書の背景にあるのはロシアのウクライナ侵攻であり、中国や北朝鮮の動向である。政府はアジア・太平洋地域の安全保障環境に影響を及ぼす3カ国の動きを注視している。しかし、国民に不安をあおる脅威論と軍備増強は平和構築に逆行する。
防衛省幹部は先月30日の参院外交防衛委員会で北朝鮮の核・ミサイル開発を「重大な脅威」と位置付ける一方で、中国、北朝鮮、ロシアの3カ国について、国家そのものを「脅威」とまでは考えていないと答弁した。沖縄から見れば、南西諸島で進む軍備増強との整合性に疑問符が付く。極端な脅威論に振り回されてはならない。
今年になり「新しい戦前」という言葉をよく聞くようになった。「国のかたち」を変えた安保関連3文書への不安を反映した言葉であろう。日本を戦前へ回帰させてはならない。そのためにも外交と対話が求められている。