県内の和牛子牛価格の下落が止まらず、繁殖農家が窮地に陥っている。飼料価格の高騰が影響し、経営が厳しくなった県外の肥育農家が高値での取引を避けているためだ。
このままでは県内畜産業は壊滅的なダメージを受けてしまう。国や県、農業団体の連携で早急に農家支援策を検討する必要がある。
JAおきなわによると、5月の競りの平均価格(速報値)は47万732円で前月比4万1110円の減。前年同期と比べると12万5710円も下回っている。
肉用牛の子牛を育てる県内の繁殖農家は生後おおよそ9カ月で競りに出し、枝肉にできるまで育てる肥育農家に販売している。繁殖農家は最低でも約50万~60万円で販売しなければ採算は取れない。現在、赤字を抱えながら子牛を売る繁殖農家もある。
子牛価格の下落は沖縄だけではなく、全国的な傾向だ。要因はコロナ禍による需要減と、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした飼料価格の高騰である。
新型コロナウイルス感染症の影響による需要減で子牛価格の下落が県内で始まったのは2020年3月である。
県畜産振興公社によると20年2月時点で、税込み60万円台後半にあった子牛1頭当たりの平均取引価格は、20年5月には51万6千円台まで下落した。その後政府が打ち出した「GoToトラベル」や「GoToイート」などの消費喚起策で、20年12月には70万円台に回復した。
ところが22年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、トウモロコシを主とした飼料が国際的に上昇。子牛の買い手となる肥育農家が子牛の競り値を低く抑える傾向が強まり、繁殖農家の経営を圧迫している。22年8月には子牛価格は再び60万円を割り込み、その後も低迷が続いた。
県経済を苦境に追いやった未曽有のコロナ禍は繁殖農家にとっても大きな痛手となった。それに続くウクライナ侵攻による飼料価格高騰が追い打ちをかけた。いずれも沖縄の繁殖農家だけで打開できるような問題ではない。円安や燃料費高騰も農家の経営難に拍車をかけている。このまま放置するわけにはいかない。
県や県議会、JAをはじめとする県内農業団体は連携し、早急に支援策をとりまとめてほしい。県内の繁殖農家の経営実態を調査する必要がある。その上で何が求められるか精査し、打開策を打ち出すべきだ。子牛価格下落は全国的な問題であり、国政でも対応を協議すべきだ。
沖縄は全国4位の子牛の生産地である。県内の繁殖農家が育てた子牛を購入する肥育農家の9割は県外業者だ。近年は「沖縄生まれ沖縄育ち」という県産和牛ブランドも確立しつつある。沖縄の農畜産業で大きな位置を占める和牛子牛の生産を絶やしてはならない。沖縄ブランドを守る施策が急がれる。