<社説>県の自治体外交 平和と安定へ連帯強化を


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 沖縄県の照屋義実副知事が、韓国・済州特別自治道の呉怜勲知事と会談し、済州道が呼びかける「グローバル平和都市連帯」へ参加する意向を表明した。玉城デニー知事が掲げる地域の平和構築に向けた県の地域外交が本格的に始まった。自治体間の交流を積極的に進め、地域の安定や「人間の安全保障」による平和構築につなげてほしい。

 沖縄県は、2022年度からスタートした第6次沖縄振興計画の「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」で、アジア・太平洋地域の持続的安定に貢献するため地域協力外交に取り組むとしている。23年4月には、県の7カ所の海外事務所の情報を集約し、地域外交の司令塔的役割を担う「地域外交室」が設置された。
 今回、照屋副知事が参加を表明した「グローバル平和都市連帯」は、韓国政府から「世界平和の島」に指定された済州が、第1次世界大戦の激戦地となったフランスのベルダンと、ドイツのオスナブリュックの欧州2都市と連帯・協力して構成した都市間ネットワークだ。
 沖縄県がこの枠組みに参加することで、より幅広い平和構築への取り組みにつながることを期待したい。
 照屋副知事は済州で開かれた「済州フォーラム」の「持続可能な平和と繁栄のための地域外交」と題したセッションで講演した。このセッションに登壇した中国・海南省の巴特爾常務委員兼秘書長は「地方外交は多様な形で協力できる。域内の持続的な平和のために重要な役割が担える」と強調した。
 海南省と沖縄県は、18年に島しょ地域が抱える環境問題を話し合うフォーラムで、済州、米ハワイ州とともに共同宣言を採択するなど環境分野での交流がある。今後は地域の安定についてもさらなる連携を深めてほしい。
 米中の対立が激化する中、「台湾有事」を念頭に置いた日米の南西諸島防衛強化が進んでいる。しかし軍備増強は緊張を高めるだけなく、偶発的な衝突を招きかねない。「外交と防衛は国の専権事項」との主張もあるが、「有事」が起きた際に真っ先に紛争に巻き込まれる恐れのある沖縄県は、自ら自治体外交を展開することで、平和と地域の安定構築に取り組むべき立場にある。
 沖縄はこれまで福建省をはじめとする中国や台湾との歴史的、文化的な交流も深い。コロナ禍前の19年、海外からの入域観光客は台湾が93万9700人、中国は75万4200人と、合わせて全体の6割近くを占めた。観光など経済分野での交流も進んでいる。
 「台湾有事」が叫ばれる現在、対立を深める国家間の対話を促す上で、自治体外交の果たす役割は大きい。人的ネットワークや連携を通じて、それぞれの自治体がそれぞれの政府に緊張緩和や紛争回避を働きかける世論形成につなげてほしい。