<社説>防衛増税先送り 強化の必要性を検証せよ


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 防衛財源の確保に向けて計画していた増税について、政府は2024年以降としていた実施時期を先送りする。そもそも敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有など防衛力を強化するための増税について国民の理解が得られていない。必要性を含めて検証し直すべきだ。

 政府は27年度の防衛費と関連予算を合わせて国内総生産(GDP)比2%にすることを目標としている。23~27年度の5年間で総額約43兆円を防衛費に投じる計画である。
 増額分の財源は、歳出改革で3兆円強、税収の上振れなどで生じる決算剰余金で3兆5千億円程度、税外収入を集めた防衛力強化資金で4兆6千億円から5兆円強を確保し、不足分を増税で賄う。
 増税するのは法人、所得、たばこの3税で、22年末に決定した23年度の税制改正大綱で引き上げを「24年以降の適切な時期」に実施するとしていた。
 国民の理解は得られていない。共同通信が5月にまとめた全国郵送世論調査で、防衛力強化のための増税方針について「支持する」は19%で「支持しない」が80%を占めた。23年度から5年間の防衛費を43兆円とすることについても「適切ではない」が58%に上った。
 安全保障環境の厳しさから世論は一定の防衛力強化は認めるものの、大幅な防衛費増額や増税は望んでいない。
 こうした民意に耳を傾けた上での先送りということではない。自民党内には安倍派を中心に増税方針への不満が広がっていた。増税以外の防衛財源確保策を検討してきた党特命委員会の提言を受け、実施時期を先送りする。衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、国民の負担を抑制する姿勢をアピールしたいということであろう。
 防衛力強化資金の創設など、増税以外の財源を確保する特別措置法案は衆院を通過し、参院でも審議が大詰めだ。ただ、国民の疑問に答えるような審議とはなっていない。
 27年度の防衛費をGDP比2%とする根拠は何なのか。自衛隊の現行の装備や態勢に無駄はないのか。選挙前の増税回避という姑息(こそく)な対応ではなく、そもそも必要な増税であるのかを真正面から問い直す必要がある。
 東アジアの緊張緩和は防衛力強化一辺倒ではなされない。敵基地攻撃能力の保有はむしろ緊張を高める危険性を伴う。国民の間にも周辺国との軍拡競争に陥るとの懸念が高まっている。外交を含め、対話による緊張緩和こそが優先して求められよう。
 玉城デニー知事は敵基地攻撃能力を有するミサイルの県内配備に反対する考えを政府に伝え、「平素の対話による平和環境の構築を進めること」を促した。
 防衛費増額の根拠を示すことに合わせ、対話の道筋をどう描くのかについても示してもらいたい。