<社説>河野氏講演と沖縄 民主主義的正当性を示した


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 平和憲法を尊重し、戦後民主主義を支えてきた保守政治家としての矜持(きょうじ)であろう。沖縄に寄せる深い思いが詰まっていた。

 元衆議院議長で、自民党総裁も務めた河野洋平氏の講演会「戦後70年 沖縄・アジアの未来を語る」が開かれ、会場には熱気が渦巻いた。
 折しも、名護市辺野古の新基地建設をめぐり、安倍政権が、前知事の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の権限を剥奪する代執行訴訟を起こした日に催された。
 「残念でならない」と切り出した河野氏は2014年の名護市長選、県知事選、衆議院選挙で辺野古移設推進派が全敗した民意を「オール沖縄」と位置付けた。
 その上で「沖縄の人の意思は明確だ。民主主義国たる日本で県知事の取り消しを一方的に是正しろというのは、どう考えても地方自治、民主主義を否定している。日本は本当に民主主義国家なのか」と鋭く問い掛けた。
 権力を振りかざして新たな基地負担を強いる姿勢は、憲法が定める民主主義と「地方自治の本旨」を掘り崩すと警鐘を鳴らしたのだ。
 それは安倍政権の本質を射抜くとともに、情と理を尽くして米軍基地の新設に抗(あらが)う沖縄の訴えが民主主義的正当性を持っていることをくっきり照らし出している。
 自民党の中枢を歩んだリベラル派の重鎮による重みのある政権批判には、民意に背を向ける為政者を正す強い使命感も宿している。
 中国の軍事的脅威をあおることに対しても「外交努力を尽くしていない」と指摘した。沖縄こそ、領土問題や歴史認識でいがみ合う日本と中韓首脳が会談する適地と提唱したことも意義がある。
 1937年生まれで、米軍の機銃掃射から身を隠した経験もある戦中派だ。河野氏は沖縄の近現代史、12万2千の県民が犠牲になった沖縄戦と米軍統治に起因する苦難の戦後への学びが深い。
 「戦後70年基地を抱え、新たな基地が造られると、戦車と鉄砲で取り上げた土地に100年他国の基地が居座る」。河野氏の懸念は県民の思いと通じる。「日本政府による沖縄の意思をねじ曲げた」施策が断ち切れないことに、政治家としての贖罪(しょくざい)意識が息づく。安倍政権に決定的に欠落した認識である。
 安倍政権は、保守本流を歩んだ先達の新基地建設断念を促す直言を真摯(しんし)に受け止めてもらいたい。