この国は民主主義の国なのか。あぜんとする発言が飛び出した。
安倍晋三首相が衆院予算委員会で、宜野湾市長選や今夏の参院選、県議選が辺野古新基地建設に影響するか問われたのに対し、「安全保障に関わることは国全体で決めることだ。一地域の選挙で決定するものではない」と述べた。
政府が決めるから地方は黙って従え、という意味にほかならない。地方自治を完全に否定する発言だ。選挙で示す民意に従わないと明言したわけだから、民主主義を適用しないと断言したことにもなる。
首相は戦後70年談話で「民主主義、人権といった基本的価値を堅持し、その価値を共有する国々と手を携え」ると述べた。民主主義の無視を公言しておいて、どんな手を他国に差し出すのだろう。
今夏の参院選から選挙権の年齢が18歳以上に引き下げられる。若者に投票の意義を説くべきところを、投票が無意味だと示したのである。投票に行かない若者の多くは「どうせ投票しても何も変わらない」と語るが、そうした諦めと無力感を、政府トップ自ら植え付けてどうするのか。
しかもこの民意の露骨な無視は、他府県では行っておらず、沖縄でのみ行っていることである。
2014年、政府は米軍普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの訓練移転を佐賀県に提案した。地元から反発の声が上がると、翌年、政府はあっさり断念した。その際、菅義偉官房長官は「知事など地元からの了解を得るのは当然だ」と述べた。
だが沖縄での辺野古新基地建設では、知事も地元市長も反対なのに、同じ菅氏が先月、工事の実施を「当然」と述べていた。沖縄では41全市町村の首長も知事も反対の署名をし、全市町村議会も県議会も反対決議をしたのにオスプレイ配備は強行された。配備どころか単なる訓練移転でも佐賀では地元の了解が「当然」の前提なのに、沖縄では常駐配備という最悪の選択が何一つ了解なしに強行されるのである。
首相は今回、安全保障を沖縄の民意無視の理由にしたが、佐賀では同じ基地絡みなのに民意を受け撤回した。この露骨な二重基準が差別でなくて何であろう。
首相は衆院代表質問で「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら」と述べていた。民意を無視して、どう「寄り添う」つもりだろうか。