防衛省は有事の際に自衛隊員や武器を輸送するため、民間の船員を活用する計画を進めている。悲惨な地上戦を体験した沖縄として、決して看過できない動きだ。
防衛省は武力衝突などの際に、民間船員を予備自衛官として活用することを計画している。大型輸送艦が3隻しかない海上自衛隊の輸送力を補うことが目的だ。
大戦で民間の船や船員を軍事徴用し、数多くの犠牲を出した歴史をいったいどう考えるのか。自衛隊の船員不足を民間に補完させる極めて危険な発想だ。到底容認できない。
防衛省は元自衛官でなくても予備自衛官になれる「予備自衛官補制度」を、現在の陸自から海自にも拡大することを検討している。借り上げ船を運航する予備自衛官の確保を急ぐため、新年度予算案に民間船員を予備自衛官補として採用するための経費を計上した。
これに対し船員らでつくる全日本海員組合は「事実上の徴用だ。戦後希求してきた恒久的平和を否定するもので、断じて許されない」と強く反対する声明を出した。防衛省にも直接申し入れている。
当然だろう。海員組合によると、第2次大戦で徴用された1万5518隻の民間船舶が撃沈され、少年らを含む6万609人の船員が犠牲になった。これは軍人の死亡率を大きく上回っている。
「このような悲劇を二度と繰り返してはならない。船員に限らず、国民全員が認識を一にするところだ」という同組合の訴えを防衛省は真摯(しんし)に受け止めるべきである。
防衛省は「予備自衛官になるのは希望者だけで強制することはない」と説明する。だがいざ有事となれば、民間企業に大きな圧力がかかることは想像に難くない。「船の運航はチーム一体が基本。周りがやると断りづらい」(海員組合)という側面も指摘される。
防衛省は2013年末に決定した防衛大綱に基づき、これまで訓練や大規模災害時に自衛隊が利用するフェリーを借り上げる契約を結んできた。今月には有事の際の人員や武器の輸送に関する事業契約を、民間出資の特別目的会社と締結している。
民間船員活用に関して防衛省は、南西諸島での有事を想定しているとされる。国民の監視が十分行き届かないところで、計画が加速する現状に危機感を覚える。防衛省はまず計画の全容を包み隠さず明らかにすべきだ。