<社説>ムヒカ氏初来日 戦争なき世界実現考えたい


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 「世界で一番貧しい大統領」として知られる南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が初来日した。日本政府が他国を武力で守る集団的自衛権行使を可能にした安全保障関連法を制定したことについて「日本国憲法の解釈を変えるということは、日本が先走って大きな過ちを犯していると思う」と批判した。正論だ。政府は真剣に耳を傾けるべきだ。

 ムヒカ氏は2010年から15年までの大統領在任時代、豪華な大統領公邸には住まず、郊外の農場で暮らした。月額報酬約115万円の9割近くを社会福祉基金に寄付し、約10万円で清貧な生活を送った。
 「貧乏な人とは無限の欲があり、いくらモノがあっても満足しない人のことだ」
 ムヒカ氏は12年6月の国連持続可能な開発会議でこう発言し、反響を呼んだ。質素な生き方の実践は、大量消費社会が引き起こす気候変動や環境破壊、貧困や格差への強い疑問と、戦争、テロなどをもたらす現代世界の矛盾に警鐘を鳴らすものだ。
 初来日での会見では「軍備の拡張は世界的に大きな問題であり、経済的な観点からも非常に深刻なことだ。膨大な軍事費で無駄遣いされているお金を貧困や環境問題の解決に使うべきだ」と述べ、世界の軍事化の動きを批判した。
 さらに欧州などで相次ぐテロとの関連で「政治でもスポーツでも『熱狂』は危険なものだ」と指摘し「その人が信じることだけを正しいとする盲目につながり、あらゆる疑問を覆い隠す。それは賢さとは対極にあるものだ」と語った。この発言で真っ先に思い浮かんだのが、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画に対する日本政府のかたくなな姿勢だ。
 世論調査、名護市長選、知事選、衆院選の結果を見ても県民の大多数が反対しているにもかかわらず、政府は「辺野古が唯一の手段」と繰り返して作業を強行してきた。民意に耳を傾けず沖縄の軍事拠点化を進める政府の姿勢はムヒカ氏が指摘する「その人が信じることだけを正しい」とする「賢さとは対極」にある「熱狂」そのものではないか。
 「私たちにとって、人生、命ほど大切なものはない」とも語った。沖縄の「命(ぬち)どぅ宝」の精神と同じだ。ムヒカ氏の「戦争を終わらせる義務がある」との訴えを実現する方策を世界の人々と考えたい。