「曲学阿世(きょくがくあせい)」という言葉を思い浮かべるほど、あきれ果てる出来事が起きた。言葉の意味の一つは「道理を曲げて権力者におもねる」こと。沖縄防衛局が県の要請内容を弱めて米軍に別文書で送っていたのは、まさに言葉通りの所業だ。
嘉手納基地周辺の河川から国内で原則使用禁止の有機フッ素化合物(PFOS)が検出された問題で、県企業局は「(PFOSを含む泡消火薬剤などを)直ちに使用中止」にするよう米軍に求めた。ところが沖縄防衛局は、県とは別の要請文書を米軍に送り、しかも「可能な限りの使用抑制」と表現を弱めていた。
PFOSは航空機燃料や洗浄剤などに使われる。動物実験では反復投与による死亡が確認されている。そんな危険物質が県民の飲み水に混ざっていたのだ。嘉手納基地から流出した可能性が高く、県民の健康を守るためにも企業局の要求は当然のことだった。
国民の生命・財産を守るのは政府機関として何よりも優先すべき事柄だろう。沖縄防衛局は、県民に健康被害の可能性があっても米軍にものが言えないのか。
基地内でのPFOSの使用状況も明らかになっていない段階で、米軍の裁量による「可能な限りの抑制」で済ませては、PFOSの使用、さらには流出の可能性を見過ごしたと指摘されても仕方ない。
県内では事件や事故のたびに、自治体、各議会が意見書や抗議決議を携えて防衛局や外務省沖縄事務所に要請行動をしている。
要請の際には「綱紀粛正」「再発防止」などの言葉が交わされるが、何度も県民は裏切られてきた。
今回の防衛局の問題は「県民の要求が米軍に伝わっているのか」という疑念をいっそう膨らませることになった。県民の正当な要求をわざわざ国が打ち消していたのではないかという疑念だ。
これが氷山の一角でなければいいが、少なくとも防衛局は県民の要求をどのように米軍に伝えたのか、さかのぼって説明する義務がある。
防衛省のホームページで「沖縄防衛局とは」の欄には「中央において企画・立案された諸施策・政策を実現し、国と地方公共団体との綿密な連携体制を強化する役割を担う」とある。「お上」の仕事を実現するのが目的で、地元の声を聞く役所ではない。県民と向き合わず東京と米軍ばかりを向いている防衛局に存在意義はない。