現役の米大統領として、初めて広島を訪れたオバマ氏は「アメリカを含む核保有国が勇気を持って核廃絶を追い求めなければならない」と語り、核兵器のない世界へあらためて決意を示した。
被爆者らを前にした所感で謝罪はなかったが、原爆投下は「人類の道義的な目覚めとすべきだ」と位置付け、71年前の悲劇を教訓とする考えも強調した。
オバマ氏は、言葉通りに残り約8カ月の任期で核兵器廃絶へ向けてさらなる道筋をつけてもらいたい。それが世界で唯一、核兵器を使用した国家の指導者としての責任だ。米国が行動を起こし、全ての核保有国に廃絶を呼び掛け、オバマ氏が「核なき世界」の実現へ向け主導的役割を果たすべきだ。
2014年にオーストリアで開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」や、15年の核拡散防止条約(NPT)で、米国は非保有国が主導する「核兵器禁止条約」を支持しない方針を表明している。まず米国は非保有国の意見に耳を傾け、条約の実現可能性を真剣に検討すべきではないか。
米科学者連盟の推定では、15年4月1日現在で世界中の核弾頭約1万5千発のうち、米国が約45%(7100発)、ロシアが約48%(7500発)を保有する。
世界の半数近い核弾頭を保有する米国が、真剣に取り組むことこそが核廃絶への近道だ。今こそ率先して行動すべき時である。
オバマ氏がノーベル平和賞を受賞するきっかけとなったプラハ演説以降、イラン核開発の制限など一部で核不拡散に向けた成果はあったものの、米国自身の行動は成果が伴っていない。
米国は10年に4年ぶりとなる臨界前核実験を行い、小型核爆弾の開発も進める。ロシアとの核軍縮交渉は停滞したままだ。一方で核兵器維持や近代化に対し、米国は向こう10年間で約37兆円もの予算を使う計画もある。
オバマ氏はプラハ演説でこう述べている。「分裂を乗り越え、希望を踏まえ、この世界を見つけた時よりももっと繁栄させ、平和的であるようにしてから去るという責任を許容しましょう」
歴史的な米大統領の広島訪問を儀式に終わらせてはならない。次世代へ、さらには遠い未来の人類へ「核なき世界」をもたらすための新たな一歩と位置付けたい。