『戦跡が語る悲惨』 沖縄戦学ぶ手頃な指南書


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『戦跡が語る悲惨』 真鍋禎男著 沖縄文化社・2100円

 初めに感じたのは、これは沖縄戦通史ともいうべき著作だ。まえがきでご本人が述べている通り「沖縄県史各巻6冊、市町村史30冊、琉球史料1冊、日本軍戦史および関連本19冊、米軍戦史2冊、学徒隊記15冊、単行本23冊、グラビア誌12冊」の計108冊を読み通して、沖縄戦を時系列・地域別にコンパクトにまとめている。本土の方や若い方々には手頃な沖縄戦学習の書といえよう。

 ただし、どうしても軍隊の側から書かれた時系列に沿って沖縄戦を概観せざるを得ず、沖縄戦の理解を進めるには限界がある。しかし、著者がその時々で住民の戦時体験記録や学徒隊の証言を援用されているのは興味深い。戦争を体験した人たちの証言を聞けなくなる時期が来ている。現地調査もバスを使って踏査されているようで、時間をかけて確認している様子がうかがえ、頭が下がる。

 著者は書名に「戦跡」という語句を使用している。戦場化した沖縄では、その場その場に戦争の傷跡が残され、そこに軍民のさまざまな証言がある。私たちが、沖縄住民の戦争体験を重視してきたのは、軍隊の側から記述された手記や戦後に書き直された防衛庁資料は、どうしても一面の真理しか語り得ないという疑念があるからだ。著者が、体験者の思いに寄り添って記述されていることは伝わってくる。

 後半で、戦後建てられた慰霊塔の分析をしている点は貴重なものだ。沖縄戦の地を巡るにあたって目標とする必要はあるだろう。しかし、文化財として「戦跡」と呼ぶにはふさわしくない。遺骨の残る納骨堂を、どう扱うかは、沖縄県内でも明確な方向性は出ていない。各都道府県遺族会や戦友会が建てた「英霊顕彰」の碑が、平和への教訓を学ぶ対象としては不適切だろう。

 あとがきにある通り、戦後71年が経過し、占領期同様に米軍基地が集中している現状を、本土の側が「沖縄戦をどう受け止めるのかがあらためて大きな問いとして浮かび上がる」と述べておられる。著者の思いを多としたい。

 (戦跡保存全国ネットワーク前共同代表・村上有慶)
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 まなべ・さだお 1943年大分市生まれ。高校卒業後、電機会社に就職。労働組合の専従を10年務めた後、82年にフリーのルポライターとして独立。2008年、沖縄へ移り住んだ。