米軍北部訓練場のヘリパッド移設工事で、政府は陸上自衛隊の輸送ヘリコプターを投入した。県側は前日に自衛隊ヘリ投入を検討していると説明した沖縄防衛局に対し、環境への影響や根拠法令などを説明するよう求め、現段階で「やるべきではない」と伝えていた。だが十分な説明はないまま、翌朝には陸自ヘリによる運搬が行われ、翁長雄志知事は「実に残念で、憤りを感じる」と政府の頭越しの姿勢を批判した。県と国が辺野古新基地建設問題を抱える中、翁長知事は「ある基地で行われていることで信頼関係を損なうと、他の基地についても信頼関係の中から物事を発想しにくい」と述べ、基地問題全体が悪化するとしたが、政府との認識の溝は深い。
稲田朋美防衛相による大臣命令が陸自の中央即応集団司令官に出されたのは12日夕だった。同時に陸海空3自衛隊の幕僚長に対し、大臣命令を進めるための細部の事項を指示させるなど、自衛隊が総力を挙げて米軍のヘリパッド建設を進める態勢が組まれた。
■官邸直結の指示
陸自ヘリによる空輸に関して、当初は陸自内部から慎重意見があった。ただ防衛省内局から活用論が噴出、大型重機の空輸に陸自ヘリが投入された。政府関係者は「官邸直結の稲田大臣だから指示もスムーズだ。海自艦も出たと聞く。まさに総動員態勢だ。それだけ高江に力を入れているということだ」と解説した。
ただ米軍施設建設に対する自衛隊ヘリの投入は、政府内でも長い間「万策尽きた時」の最終手段と位置付けるほど慎重な検討対象だった。政府が最終的に自衛隊の投入に踏み切った13日、県幹部は「本当に何でもやるんだな」と不快感を隠さなかった。米軍施設建設を自衛隊が直接支援することについて、県は12日に防衛局に法的根拠を質問したが、機材空輸までに正式な回答はなかった。
■所掌事務の説明
その後、陸自ヘリの投入が報道され、政府が防衛省設置法第4条1項19号を根拠にしたとの情報に触れた県幹部は、即座に同法の条文を確認。「条約に基づいて日本国にある外国軍隊の使用に供する施設及び区域の決定、取得及び提供並びに駐留軍に提供した施設及び区域の使用条件の変更及び返還に関すること」との説明を読むと、「単に防衛省の所掌事務を説明しているだけではないか」と絶句した。
政府がヘリパッド建設に躍起になるのは、稲田防衛相の訪米が目前に迫るからだ。米軍属女性暴行殺人事件を受けた日米地位協定の軍属の扱い見直しなどが進む一方、辺野古新基地建設が裁判和解で中断し、政府は陸上部分の工事も再開できていない。米軍再編などは進展が見られないため、ヘリパッド建設を成果としてアピールする考えだ。
稲田氏の訪米日程ではカーター国防長官との会談が予定される。防衛省幹部は「沖縄の負担軽減の進展なども説明することになる」と強調。大規模な返還につながるヘリパッド建設を前面に出す考えだが、皮肉にも県側からは既にその手法に対する批判が上がっている。(仲村良太、島袋良太)