【島人の目】アメリカはどこへ行く


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 アメリカで投票権があるのは市民権保持者だけで、永住権を何十年持とうが投票はできない。私が市民権を得てから今回が4度目の大統領選の投票となった。

 投票所は近くの小学校に設置されていて、3人の白人男性の若者たちに「投票所はあそこだね」と尋ねた。彼らは「そこに列ができているだろう。さっきはだいぶ混んでいたが、今は少しすいている。トランプに投票するんだよ。クリントンは駄目だよ」と呼び掛けてきた。「オーケー、よく考えてから投票する」と適当に返事し、その場を後にした。

 開票が進んでいくうちに思いがけない現象が起きた。トランプ氏がどんどん勢力を増して、あちこちの州の票を獲得し始めたのだ。特に激戦州とされていたオハイオ州でトランプ氏が圧勝したのには目を見張った。この州で負けて大統領選を勝ち取った候補者は前例がないと言われていたのだ。

 「これはただ事ではない」。胸騒ぎがした。真夜中になり、とうとうトランプ氏の当選が確実になった時にはあぜんとした。なんだかキツネにつままれたように感じた。接戦ではあったが、各州の獲得人数はだいぶトランプ氏が突き放しているではないか。よく考えてみると、特に後半戦になって、観衆に訴える力は断然トランプ氏が上だった。ヒラリー氏は何を強調しているのかよく分からないところがあって、オバマ大統領の上を行く政策は見当たらなかった。それが決定打となって票差に表れたのだろう。

 多くの国民はトランプ氏の政策に懸念を示し、「大統領としての資質があるか」と問う声も上がる。だが、数々の「暴言」が全て実現できるわけではないことを理解し、ここまで来た以上は慌てずに見守る必要がある。このようなことが起こるのもアメリカならではの表れと私は楽観視している。なにせ、どうしようもない失政には弾劾(インピーチメント)という手段が残されているのだ。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)