沖縄県東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場の部分返還計画を巡り、翁長雄志沖縄県知事は28日、「苦渋の選択」と表現しつつ、返還条件とされる同訓練場内のヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)の新設を事実上容認する姿勢を初めて示した。建設の是非に対する姿勢の曖昧さを政府に突かれた格好だ。米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画に反対する「オール沖縄」勢力の中には翁長知事への不信の声もくすぶる。政府側には、辺野古新基地建設問題での翁長県政の姿勢軟化に弾みを付けたいとの思惑も垣間見える。
「苦渋の選択というと理解できない方がたくさんいるが、北部訓練場も苦渋の選択の最たるものだ」。翁長知事はそう答えた。ある与党県議は「選択といっても、SACO(日米特別委員会最終報告)の着実な実施と言う知事が過半の返還を断るわけにはいかない。米軍輸送機オスプレイへの反対や(再実施を求めている)環境アセスに関する立場も変わってはいない」とおもんぱかる。
だが県政野党の自民党県議の一人は「なぜこのタイミングか。年末の予算や税制改正も視野に入れたリップサービスか」と真意をいぶかる。発言は公約違反だとの認識を示し「辺野古受け入れも『苦渋の選択』となるのではないか」と皮肉った。
■「歓迎も反対も地獄」
翁長知事はこれまで工事を強行する政府の「手法」は批判してきたが、建設自体に反対かどうかの問いには「分かりましたという状況ではない」と曖昧な発言を繰り返していた。
ヘリパッド工事自体への知事の曖昧な姿勢の背景について、県幹部は「SACO合意は沖縄の負担軽減になるというのが県の立場だ。建設に反対すればSACOの枠組みの否定につながりかねない。『県は基地返還を望んでいない』と国に利用されるリスクがある」と説明する。
一方、県政与党や知事を支える「オール沖縄」勢力の一部からは、県が配備撤回を求めるオスプレイの運用を前提としたヘリパッドの建設に知事が反対しないのは矛盾しているとの批判の声も出ていた。
ヘリパッドの年内完成の日程は目前に迫る。政府が北部訓練場の過半返還の取り組みをアピールする中、知事周辺は「この状況を歓迎しても、反対しても地獄だ。政府の分断策に利用されかねない」と頭を抱える。
■“変節”歓迎
「容認は当然だ。だがこれまではっきりと反対と言っていなかったから良いことだ」。防衛省関係者は声を上ずらせ、これまで政府を批判していた翁長知事の“変節”を歓迎してみせた。政府・自民党関係者からは「次はオール沖縄の分裂だ」との声も上がる。
政府は、知事を支える「オール沖縄」内でのヘリパッド建設の是非を巡る温度差を察知し、そこにくさびを打ってきた。安倍晋三首相は今年9月の所信表明で「20年越しで実現させる」と宣言し、当初予定を前倒しして年内のヘリパッド完成へと計画を変更させた。環境に負荷の大きい工法に変更してまで工期短縮を優先させ、県の反対要請を押し切って工事を強行、翁長県政への圧力を強めていた。
政府には知事のヘリパッド建設容認を辺野古の“推進力”につなげようとする思惑も見え隠れするが、「革新」サイドの県政与党関係者は知事の今回の「容認」は織り込み済みとする。
「ヘリパッドの工事はなかなか止められないが、アセスやオスプレイを使わせないことで、実質的に運用を止めることができればいい」と今後の県対応に期待する声も上がる。
ただ、県が東、国頭両村と合意したオスプレイ対象の環境影響評価(アセス)再実施とオスプレイ配備撤回の要請について、防衛省幹部は「知事が今回容認したからアセスを認めるということにはつながらない」と冷静な口調で否定した。
(滝本匠、島袋良太、仲村良太)