「はいたいコラム」 山を活かせば宝島


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 島んちゅの皆さん、はいたい~。静岡県の伊豆半島、松崎町へ行ってきました。地元保存会の人たちが復活させた370枚の棚田で、棚田オーナーら700人が集まる田植えイベントがあったのです。苗を植えながら無数のおたまじゃくしに驚き、里山を体感しました。私も友達も正直、労働力とは程遠いものでしたが、町のみなさんからは、地元特産の桜葉おにぎりやお赤飯、夜は鯛(たい)や伊勢エビの舟盛り宴会と大歓待を受けました。

 初夏の水田をはだしで駆け回る子どもや、解き放たれた表情の大人を見ていると、人は土からエネルギーをもらい、田んぼには“にぎわい”という別の力がもたらされているのを感じました。昔からお田植神事があったように、田の土に苗を植えたその日から恵みの秋を迎えるまで、自然環境と人との長い長い知恵比べが始まります。田植えはまさに年に1度の開会式、大勢が参加する祭りのにぎわいがふさわしいのでした。

 松崎町は面積の8割が森林です。翌日はマウンテンバイクツアーに参加しました。山で炭焼きをして江戸へ運んだ時代の古道をバイクのコースとして再生・開発しているのです。山伏トレイルツアーを運営する松本潤一郎さん(35)は、ヒマラヤをはじめ世界中の高山を旅した経験があり、最も日本らしい炭の道こそ、マチュピチュの古道のように世界に向けて発信できるとひらめいたそうです。今ではヨーロッパなど世界中のバイク雑誌が取材に来るほどです。

 マウンテンバイクにまたがって新緑の古道を駆け下りる途中には、馬頭観音やお地蔵さんがまつられ、人々がこの山を崇拝してきた歴史を感じさせます。松本さんはまた、古道再生で伐採した木をストーブのまきや、隣の西伊豆町伝承のかつお節をいぶすまきに仕立てたり、最近流行の「スウェーデントーチ」というたき火材に商品開発するなど、伊豆半島の山を資源循環の基地に変えています。

 島と半島の課題は似ていますね。夏の海以外は静かだった西伊豆の小さな町は、山を活(い)かすことで春も冬もにぎわう拠点になろうとしています。時代とともに荒廃した棚田も山林も、新たな視点を持つ人にとっては“宝島”です。そうした多様な感性の人をどう巻き込み、参画してもらうか? それは島が旅人をどう“包摂”するかにかかっています。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)