『沖縄の覚悟』 基地焦点の沖縄経済論


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『沖縄の覚悟』来間 泰男著 日本経済評論社・3200円+税

 定年後も学問への情熱は衰えず、精力的に著書を発行し、アカデミックな視点から論を表している著者には畏敬(いけい)の念を禁じえない。本書は、これまでの論考を整理した基地に焦点を当てた沖縄経済論である。

 基地は経済主体ではなく、予算を増加しない限り増加しないが、周辺の地域経済は復興、発展とともに市場メカニズムの新陳代謝を通じて、拡大発展している。その帰結が基地依存率の低下である。1950年代には50%以上あったが現在5%に低下しているのは周知の通りである。初めて基地依存経済の「限界性」を指摘したのは筆者、来間泰男教授であった。
 基地がなくなれば経済的にはマイナスなのであるマイナスであっても基地はなくすべきという旨の論を立てる。それは平和と人権、自由と人間尊厳の問題だからという。否、基地の撤去は経済的にプラスという丸山和夫との討論は興味深いが後者に分がある感がある。今、沖縄の発展可能性が大きく注目されているからである。
 失われた20年、人口減少と勢いをなくした日本経済、他方、中国を主とするアジア経済のダイナミズムの展開の中で、基地によってフリーズされてきた可能性が顕在化してきている。時流が沖縄に味方してきた。「航空、エネルギーそして製造業、知られざる先端ビジネスが動き出している。その潜在力に世界からヒトとマネーが流れ込む。もはや沖縄は日本の辺境ではない。アジアの中心は沖縄に近づいている」(日経ビジネス、2012年8・6―13号)。つまり、経済論からも基地は返還した方がよいという時代になったのである。この認識について著者にコメントを聞きたい。琉球独立論についても触れ、歴史的論拠や社会のあらゆる部門の・分野・側面において主張を網羅した「政策要領」を提示する必要があるとし、それがないのは居酒屋談義であると一蹴している。
 著者の歯に衣(きぬ)着せぬ発言の根拠は、常に歴史観、経済の運動・展開への洞察力を前提に、まさに覚悟をもって語られている。検証もしない引用や、止揚せずに結論ありきの論を展開する研究者がいる状況に、学問のルールに徹した著者の論は喝を入れている。(富川盛武・沖縄国際大学)
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 くりま・やすお 1941年、那覇市生まれ。70年~2010年に沖縄国際大学で教え、現在は名誉教授。著書に「戦後沖縄の歴史」「沖縄の農業」など。

沖縄の覚悟―基地・経済・“独立”
来間 泰男
日本経済評論社
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