地域づくりフォーラム「地域資源を活用した宮古島の可能性」


自然、環境 発展の礎に

 新報移動編集局「宮古島ウイーク」(宮古島市、琉球新報社主催、沖縄銀行特別協賛)のメーン事業、地域づくりフォーラム「地域資源を活用した宮古島の可能性」が9月30日、宮古島市のマティダ市民劇場で開かれた。基調講演した富川盛武沖縄国際大教授は「宮古島は世界有数のリゾートになる素地がある」と指摘した。パネル討論では下地敏彦市長がエコ、第1次産業、観光、下地島空港の四つをキーワードに挙げ、事業展開の方向性を示した。観光、商工、郷友会の各業界代表者もそれぞれの視点で宮古島の潜在力、可能性について語り、具体的な事業を提案。訪れた約200人の市民は、登壇者の熱意ある提言に拍手を送った。(文中敬称略)


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<パネリスト>
 下地敏彦氏(宮古島市長)
 富川盛武氏(沖縄国際大教授)
 土井幸子氏(関東宮古郷友連合会会長)
 下地義治氏(宮古島商工会議所会頭)
 平良勝之氏(宮古島観光協会副会長)
  司会 松元剛琉球新報編集局次長

基調講演

「宮古らしさ」は経済資源

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 伊良部大橋を渡り、こんな素晴らしい光景はないと思うくらい感動した。可能性を秘めた宮古島がどうあるべきか一緒に考えたい。

 沖縄の発展可能性が注目されている。県は県アジア経済戦略構想をまとめ、急速に発展するアジア経済にスピード感、スケール感を持って政策を進めないと、眼前のチャンスを逸してしまう、とまとめた。内外の状況を把握し、宮古島の可能性を論じた方がよく分かる。宮古島の発展のキーワードは、エコアイランド、スマートアイランド、環境共生社会、聖域、そして観光資源。下地島の発展計画についても話したい。

 沖縄の発展可能性が強調されているのは、地元より外の方がマーケット、市場の可能性を認めているということだ。沖縄の企業はほぼ域内市場に依存しているが、人口減少への対応が必要になる。アジアの経済とリンクしていく視点が非常に重要になる。

 沖縄の景気を支えているのが観光産業。特に、外国人観光客数がここ3年で3倍に達している。この急上昇は円高の相場の動きより、沖縄が引っ張る力が大きいと見ている。外資がホテルへの投資を中心に来ている。つまり、沖縄はもうかるということ。ハイアットは那覇の市場の近くにホテルを造ったが、街の魅力やエキゾチックなものに触れたくて観光客が沖縄に来る、という解釈が成り立つ。

 宮古島の文化や歴史、自然に人を引き付ける魅力がある。21世紀ビジョンに掲げたのは「沖縄らしい自然と歴史、伝統文化を大切にする島」。合理的な西洋主義の中で本当の豊かさを考えるヒントになる。

 最近、環境や自然を守るのが大きな経済資源としても捉えられている。宮古には御嶽(うたき)が多くあり、観光客は入ってはいけないと聞く。聖なるものを教材にしたり、環境に生かしたりする可能性もあるのではないか。

 世界を見ると、オーストラリアのグリーンアイランドには車がなく、グレートバリアリーフに観光客が多く来るが、聖域なので決められた場所しか回らない。イタリアのベネチアも輸送用の車以外は陸上に上げてはいけず、徒歩か水上タクシーで回る。

 デンマークのサムセー島は島内の電源を風力発電や太陽電池で供給し、農業もバイオ燃料を活用する。宮古バージョンとして自然を売り出すこともできるのではないか。

 海洋政策では、国土交通省が南鳥島を活用した海洋関連技術開発の実施に取り組んでいるが、海洋資源を研究する拠点をつくる点でも、宮古島は知恵を絞ってはどうか。

 県が報告書を出した下地島空港の利活用も紹介したい。パイロット養成などに応える利活用がある。中国の富裕層が自家用ジェットで訪れていると言ったが、自家用ジェットや小型機の駐機場として利活用し、周辺を海外富裕層向けのリゾート地として集積するなど調査研究していく。風景を生かした遊覧飛行など、地元も考えていくべきではないか。エコと発展がマッチするプランを宮古島の可能性として提案としたい。

宮古島の方向性

鍵握る下地島空港 下地敏
地元と交流の場を 土井
生産者が経営者に 下地義

 司会 今後の宮古島の発展の方向性について発言を頂きたい。

 下地敏彦 四つのテーマで話をしたい。一つはエコだ。宮古の人はもともとエコの概念を持っていた。私たちの飲み水である地下水を保全するためにどうするのか、ずっと考えていた。そのため、エコを中心に経済振興を考えることは、市民もスムーズに受け入れたと理解している。具体的な取り組みとして、メガソーラー、風力発電を設置し、通常の電力につないだ。来間島は全世帯に太陽光発電を設置した。来間島は台風で停電しても、蓄電した施設から電力が供給される。

 もう一つのキーワードは1次産業だ。宮古島は農業と漁業が中心の島だ。特に農業は県内でも一番進んでいる。地下ダムを利用した農業用水が確立され、水なし農業から水をいつでも利用できる農業になった。革命的進歩だ。漁業についても、カツオ、マグロが周年で捕れる。1次産業をしっかり育てることが二つ目のキーワードだ。

 三つ目は観光産業だ。たくさんの人が来るという問題を解決しないといけない。宮古島はエコの島だ。むやみやたらに観光客が来ると、島の自然環境はだんだん壊れる。同じ観光でも質の高い観光を目指し、行政の施策は進んでいる。

 四つ目は下地島空港だ。下地島の空港と大地が持つポテンシャルは素晴らしい。ことし中には具体的な形で絞り込みが行われるので、しっかりとバックアップし、新しい形の展開を考えたい。将来の大きな輝きのもとになると考えている。

 土井幸子 郷友会の私たちが宮古島を紹介するときに「ここに行けばおいしい物が食べられて、文化が味わえる」と宣伝できる場所がないのが悩みだ。鹿児島は新しく屋台村ができて、リーズナブルな名産品が楽しめる。屋台の条件はおいしい名産品が食べられること、リーズナブルであること、音楽、文化が味わえることだ。地元の人とコミュニケーションも求められている。観光客用の金額設定では地元の人は足を運ばない。観光客用の設定と、地元の人が気軽に手を出せるような設定が必要だ。

 イベントの開催も重要だ。例えばドイツのオクトーバーフェスタは有名だ。東京でも近年、まね事をやっているが、金額設定が高いのに大変なにぎわいだ。宮古島でもビール祭りをしたらどうか。平均気温23度の宮古島なら、冬でもできるのではないか。

 気軽に参加できる1~5キロくらいのマラソンがあったら行きたいという話もある。お見合いマラソン大会などで若者の誘致も夢ではない。

 もっと郷友会と島のパイプも太くしてほしい。郷友会の会員が宮古島大使となる。今後は2世を大事にすることも新しい発想になる。ふるさと納税の充実もお願いしたい。物産が宮古島に親しむきっかけになる。

 下地義治 地域資源はサトウキビ、宮古牛、マンゴー、たばこなどがある。サトウキビ、マンゴーはすごい生産量があるので、形が悪いのはジュースにするだけでなく、ドライフルーツにするなど工夫が必要だ。生産者が経営者としてもう少し考えたら、もっと大きな可能性がある。佐良浜、池間はかつお節で生産を誇っていた時代をもう一回やってほしい。

 伊良部大橋が開通し、伊良部はにぎやかになった。素通りではなく、泊まって遊べる場所を増やしてほしい。インフラ整備をすれば素通りしない、素晴らしい島になる。

 商工会議所は商品コラボグランプリをしている。今ある商品と別の商品を合体して商品化し、宮古の特産にする。どういう物語でつくるのかも評価する。いろんなことをしながら、宮古の特産をつくりたい。

 下地島空港は県の空港だ。はっきりしないと宮古島も動きにくい。はっきりすれば筋道ができると思っている。宮古空港は駐車場の上に太陽光パネルを張り、蓄電池をターミナルに付けようと計画している。急速充電も設置し、エコカーの充電ができる計画の話を役所と進めている。

 宮古は天然ガスも出るが量がはっきりしていない。量によっては、大きな可能性を含んでいると思っている。

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活発な論議が展開された地域づくりフォーラムのパネルディスカッション=9月30日、宮古島市マティダ市民劇場


伊良部の魅力PR 平良
富裕層客の開拓を 富川

 平良勝之 ことしは念願の伊良部大橋が開通し、好調に推移している。しかし、国内の人口減少や少子高齢化が進む中、国内だけで大幅な伸びは期待できず、今後は近隣の諸外国から観光客を取る必要がある。幸いにして宮古島には三つのゴルフ場がある。冬場のゴルフ観光客の誘致を図るため、トップセールス、プロモーション活動を積極的に展開したおかげで、昨年度は延べ4千人ほどの受け入れができた。

 夏の海洋レジャー客の誘客や中国、台湾からの誘客活動を展開していく必要もある。近い将来、外国客の増加を想定し、CIQ(税関・入国管理・検疫)施設の整備や海外客に対応できる人材の育成が急務だ。

 伊良部大橋のおかげで渡久地の浜、佐和田の浜は非常に楽しい浜になると思う。(世界最大の旅行口コミサイトの調査で)ベストビーチに選ばれた与那覇前浜ビーチを抜くと思うくらい素晴らしビーチだ。内外にアピールし、美しい海岸線を永久の観光資源として守り育みたいと思っている。

 これからの課題は首都圏、関西圏からの直行便増設、各地からのチャーター便の誘致、座席の増加、ならびにLCCの航空だ。行政、商工会議所、関連施設と力を合わせて、オール宮古の力を発揮し、スピード感を持って頑張りたい。

 富川盛武 下地市長はエコを基調として、1次産業を推進すると言った。農産物でも最近は輸出できるものがある。九州のあまおう(イチゴ)は日本の2、3倍の値段でも香港で売れる。戦略的な農産物を展開すればもっと売れる。

 数でこなす観光は終わってきている。高所得者層がたくさん出ているので、単価を上げれば人数を増やさなくてもできる。これは県の戦略もあるので、市と協力できる。観光は数を増やすことも大事だが、ターゲットを絞ることが重要だ。例えば、首都圏の奥座敷というものがある。高級で落ち着きがあり、大人がくつろぐイメージだ。そういう可能性を宮古島は示している。クルーズ船や自家用ジェットも来る時代なので、富裕層の開拓は宮古島の独特の可能性で展開できる。

 WiFi(ワイファイ)はつながらない地域がある。今の若い人はSNS(会員制交流サイト)をやっている。特に外国人はこれで、どこで買い物するか決めている。ワイファイが途切れるのは停電するようなものだ。県が主導し、一括交付金を利用しながら、どこに行ってもワイファイがあるようにしてほしい。宮古島でSNSを展開できれば、外国人観光客はネットワークで芋づる式に出てくる。

課題への方策

人口増へ雇用創出 下地敏
「高級志向」に対応 下地義
多彩レジャー実現 平良
郷友会と連携促進 土井

 司会 宮古島は観光客数が伸びている中で、人口が減少している。定住人口をどう確保し、宮古の可能性をどう伸ばすのか。

 下地敏 宮古島の出生率は県内でも高く、子どもを4人以上産むと保育料をただにする政策を実行中だ。来年完成する保育所を含めると待機児童もゼロになる。子どもをしっかり育てられる環境はつくられつつある。一方、就職や進学で島を出た人が戻ってこない状況があるが、ホテルを中心として雇用は確実に増えている。雇用の場をしっかりつくれば、人口増については大丈夫だと考えている。

 司会 観光客1人当たりの消費量が減少傾向にある。質の高い観光を実現しつつ、消費量を増やす対応策は。

 下地義 現在、いいホテルができつつあり、1泊80万円というホテルもある。実際に客が泊まっており、そういう高級志向の価値観に憧れて島に来る人も多いと聞いている。来間島にはコテージ式100棟のホテルができる。今後、このような高級志向のホテルが増え、付加価値が付いてくるのではないかと考えている。

 司会 国内の富裕層やアジアの本格的な富裕層を見据え、観光客の数と質のどちらで勝負していくのか。

 平良 7、8年前は観光収入が250億円あり、1人当たりの消費額は6万4千円ほどだったが、最近は観光収入が200億円、1人当たりの消費額が4万6千円と1万8千円の減となり、確かに下がっている。高級志向のホテルを生かしつつ、土産品の開発やレストラン、ダイビングやシュノーケル、シーカヤックなどのレジャーにも力を入れたい。若者が知恵を出して取り組んだら面白いのではないか。下地島空港の活用も大きな鍵を握っており、今後県と地元の方向性を注視したい。

 司会 関東から宮古を見て、全国的にPRしたい点は。郷友会や2世、3世がどう古里を支えていくのか。

 土井 東京で(宮古関係の)催しがあれば連絡がほしい。郷友会一人一人が大使になる役割を持っている。また、ホームページの活用を観光協会か市から支援を得て充実させていきたい。地元の食べ物や音楽を楽しめて、地元の人と触れ合える場所の設置を早急にお願いしたい。郷友会の活動のことも語り合いたいし、相互交流ができるはずだ。

 司会 伊良部大橋の開通後、島での滞在時間が短く各種施設が必要だという声もあるが、伊良部島のインフラ整備の計画は。

 下地敏 現在、伊良部島全体の総合計画がなく、道路や水道、公安、福祉施設、ビーチやレストランを含め、全体的にどうするか早急に考えないといけない。島民と共に話し合って、一つ一つ進めていくのが重要だ。喫緊の課題では道の駅を造ること。佐良浜集落の傾斜地をどうするか、島全体の都市計画を作る前に、佐良浜の合意を取り付ける必要がある。

キーワード・まとめ

おもてなし大切に 平良
「宮古」にこだわる 下地義
子ども 発展の支え 土井
可能性の顕在化を 富川
夢と希望の島構築 下地敏

 司会 宮古を発展させる今後の方向性をキーワードにして、まとめを。

 平良 宮古人の心、宮古人のおもてなし。これはどこにも勝るものがある。それをバックボーンに頑張っていけばきっと大丈夫だ。

 下地義 宮古にしかないもので宮古だけでできる、宮古の人だけでつくること。

 土井 子どもだ。都会は子どもが育ちにくい。宮古で育った子どもたちはレベルの高い教育を受けて、レベルの高い大人に成長するのではないか。

 富川 宮古島は、観光も含めて可能性が高い。もう少し県も含めて顕在化させることが大事だ。

 下地敏 市制10周年を迎え、将来の宮古のキーワードを公募し「心躍る 夢と希望の 宮古島」というフレーズを採用した。このフレーズを掲げ、未来に向かって頑張りたい。

フロアから

水の技術 海外に発信

 - 人づくりのための研修をどう位置付けているのか。また学校の統廃合による跡地利用はどうなっているか。専門学校は造れないのか。

 下地敏 海外研修を実施しており、参加者の数を増やした。女性対象だけでなく、若者の研修など、いろんな分野の研修を行っている。具体的な提案があれば検討してみたい。廃校になった学校の利活用については、専門学校を誘致できないか打診をしている。今後観光客が増えるので、外国語を研修できる専門学校や研修の施設を造れないか検討している。

 - 地下ダムを見に行く観光客は多い。JICAを通して海外に水に関するノウハウを提供しており、水や環境を中心に何かできないか。

 下地敏 水について理解を促すパネルや施設は必要かもしれない。現在、水道水については藻を発生させる浄化法を採っているが、南の国や島々にはこれが適している。毎年JICAの研修員を受け入れており、宮古の持っている技術をこれからも海外に伝えていきたい。宮古の水は硬度が高く、原水を海外に提供することも考えている。

 富川 海洋に囲まれた島嶼(とうしょ)での水の確保や海水の淡水化など、国土交通省のプロジェクトを探し、(今後の施策に)引用するのも手だ。

 - 県はアジア経済戦略構想を策定し、アジア諸国と向き合っている。離島である宮古島はこの動きに乗り遅れていないか。構想を島の発展にどのように生かしていくのか。

 富川 構想の重点政策に「世界水準の観光リゾート地の実現」がある。沖縄にはさまざまな観光のパターンがあるが、これから目指す方向は、アジアからの需要に対応するためのグレードの高い観光地にしていくことだ。あちこちが挙手をしても素地がない場所では難しいが、宮古島は非常に可能性が高いだろうと考える。伊良部大橋は非常に幻想的で、このような橋は他にはない。島なのでオーバーキャパシティーを考えなけらばならず、持続的な発展を目指すには客単価を上げる必要がある。実感として、世界有数のリゾートになる素地が宮古島にはあると考える。

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フロアからも活発な質疑や意見があった地域づくりフォーラム=9月30日午後、宮古島市マティダ市民劇場