<金口木舌>満開の桜


社会
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 染め物について、染織家の志村ふくみさんと詩人の大岡信さんの有名なやりとりがある。桜で染めたというピンク色の着物を見て、花びらを用いたと考えた大岡さんに志村さんが説明する

▼樹皮を煮詰めて染めた。それも開花直前の皮なのだと。聞いた詩人は、春先の桜が「木全体で懸命になって最上のピンク色になろうとしている」と植物の不思議に胸打たれる
▼満開の花弁も最初はつぼみだった。ラグビー日本代表のジャージー左胸に咲く桜のエンブレムである。1930年に初めて組まれた代表のそれは、つぼみと五分咲き、満開の三輪だった
▼諸説あるが、発祥の地・英国のチームと対戦できる力が付けば開花させる、との思いだったとされる。1952年、英オックスフォード大を花園ラグビー場に迎えた試合で満開の三輪となった
▼日本代表は以後、低迷もあったが、W杯1次リーグ3勝で敗退した前回を経て見事8強入りを果たした。W杯全9大会出場のアイルランドでも最高位は8強。桜の木のようにチーム全体で独自のカラーを発揮し、強豪に肩を並べた
▼南アフリカ戦の20日は、ジャパンも率いた平尾誠二さんの命日。神戸製鋼で日本選手権8連覇を逃した際「負けたときの方が学ぶことが多い」と語った。今回の活躍とともに今後の躍進を、天国のミスターラグビーは笑みをたたえ見守っているだろう。