<金口木舌>道を究める


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 紀元前の中国は趙の国の話。弓の名人として名を成そうと発起した青年が名手に弟子入りする。師から数々の難題を与えられる。「まばたきをしないようになれ」「小さい物が大きく見えるようにしなさい」

▼無理難題に挑み、目を開いて熟睡し、まつげにクモが巣をかけるようになった。さらにシラミを何年もにらんで、虫が馬ほどの大きさに見えるようになる。中島敦の「名人伝」で描かれた
▼もちろん創作だが、道を究めようと一筋に突き進む挑戦に心動かされる。この人もあらゆる課題に常に真剣に向き合い力を伸ばしていったのだろう。空手形の喜友名諒選手だ。東京五輪代表入りが確定した
▼東京五輪への出場確定は県出身選手として第1号。東京パラには陸上車いすの上与那原寛和選手が代表内定を決めている。これに続き、県民にとって大きなニュースとなった
▼先の名人伝ではないが喜友名選手が師事したのも形の実力者。世界選手権3連覇と絶対的な強さを誇った佐久本嗣男さんだ。空手初採用の五輪という新たな舞台に挑む喜友名選手。この師匠にこの弟子ありである
▼共に日本代表を務めた金城新、上村拓也の両選手の存在も大きい。喜友名選手は3人で団体形を初めて制した世界選手権を最も印象に残る大会に挙げる。つらい時も共にあったからだろう。師や仲間の思いも胸に東京の舞台へ羽ばたく。