<金口木舌>ムーンライト・セレナーデ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 75年前の戦中のことである。ロンドンからパリ向けに飛び立った単発機が行方不明になった。離陸したのは12月15日。残骸も発見されないまま、乗員は3日後に戦死認定された

▼大陸での演奏に向かうグレン・ミラーが乗っていた。当時の米国で最も人気を博したビッグバンドのリーダーだ。ミラー・サウンドと呼ばれる独特な演奏は、木管セクションにクラリネットを加えたスタイルで知られる
▼それは「ムーンライト・セレナーデ」で特徴的だ。クラリネットがサックスのオクターブ上を吹く。ミュートを付けた金管とのアンサンブルが月光に照らされる幻想的な風景を想像させる
▼作曲は1939年で、ちょうど80年前。当時、どのように月を愛(め)でたか知れないが、曲は色あせることなく親しまれている。およそ一般の感覚では理解できないのはこちら。花を観賞する宴である
▼首相主催の桜を見る会が私物化されていた。政権側は反社会勢力について苦し紛れの答弁に終始するなど、何一つ説明責任を果たしていない。臨時国会が閉会し、当分の間、言論の府での追及の機会はなくなった
▼「空明(くうめい)」は清い水に映る月影を指す。鏡のように映るからか「隠し事がない」との意味もあるようだ。内閣は国民に誠実を誓えるか。内閣の不支持率が支持率を上回った。月夜烏(つきよがらす)の好き勝手はいつまでも続かないはずだ。