<金口木舌>墓標の向こうに見える希望


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 米写真週刊誌「ライフ」1945年5月28日号に沖縄を特集したページがある。沖縄戦の最中だが戦闘場面の写真はなく、歴史や風土の紹介という趣だ。タイトルは「沖縄―日本兵以外には、とても楽しい場所」

▼赤瓦屋根の家、亀甲墓、塩田といった沖縄らしい風景が並ぶ。収容所で暮らす人々の姿もある。撮影者はJ・RアイアーマンとWユージン・スミス。スミスは70年代に水俣病を取材したことで知られる
▼沖縄特集の冒頭に載っているのが、本部町健堅に並ぶ日本軍兵士や韓国人軍属ら14人の墓標の写真である。墓標の向こうには瀬底島が浮かぶ。戦争で死ぬことの悲しさが伝わってくる
▼日本軍輸送船・彦山丸の乗組員だった14人の死から75年、墓標が並んでいた地で遺骨収集作業があった。犠牲者の遺骨は見つかるだろうか。故郷へ帰ることができるだろうか。人の一生に比する年月の重さを感じる
▼日本、韓国、台湾の若者が収集作業に参加した。戦争時、支配する側とされる側の関係にあった地の若者が共に遺骨を探す。「この意味は大きい」と沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松さん
▼若者たちの背後に瀬底島が見える。島の稜線(りょうせん)は75年前と同じだ。不幸だが忘れてはならない過去の歴史と向き合いながらの遺骨収集。歴史を巡る対立を乗り越える意思と希望をこの地に見る。