<金口木舌>フランケンシュタインは存在するか?


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 天才科学者が解剖室から人体の組織などを集め「生命」を創造する。英作家メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」だ

▼現実には生物の復活などできない。この誰も疑わない自然界の法則に当てはまらないものがいる。「外界で死んだウイルスが生き返る不思議な現象がある」と農学博士の山内一也さんが「ウイルスの意味論」で紹介している
▼「致死的な傷の場所が異なるウイルス同士では、互いに傷を治して生き返る」。「多重感染再活性化」と呼ばれる現象だ。長年、人間と共生してきたウイルス。まだまだ分からないことも多い
▼世界中で感染が拡大している新型コロナウイルスは、政府が公立小中高校や特支校に休校を要請する事態に至った。美術館などの休館や消費の減衰など経済活動への影響も広がる
▼トイレットペーパーの買い占めや感染者への差別を聞く一方で、日本から中国に贈った物資に添えた漢詩「山川異域/風月同天(別の場所に暮らしていても、自然の風物はつながっている)」に中国で感謝が広がるのを見ると捨てたものではないなとも思う
▼詩人の暁方ミセイさんはかつて詩集「ウイルスちゃん」でこう読んだ。「ウイルスが/ひとをみんな食べてしまうんだと思った。/ウイルス、きみたちには/再びと/こんな歴史がやってきませんように。」。多くが願っている。