<金口木舌>笑いを忘れない


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 「四谷、赤坂、麹町」の地名に続く句を思い出す人は国民的映画とも言えるあのシリーズのファンだろう。フーテンの寅こと車寅次郎の口上の一節で「ちゃらちゃら流れるお茶の水」と続く

▼流れるような話芸で客を引き付ける啖呵売(たんかばい)のせりふである。実際に東京の御茶の水を流れるのは神田川だ。都下を東西に走り、隅田川に合流する。かぐや姫の楽曲で有名だ
▼源流の井の頭池があり、三鷹市、武蔵野市にまたがる井の頭公園は桜の名所で知られる。例年、花見客で日中から夜までにぎわうが今年は違う。新型コロナウイルスの影響で上野などと共に立ち入りが規制された
▼世界的な感染拡大に歯止めがかからない。球音なき球春。愛(め)でる人なく満開で彩られた名所の景色はいかようか。五輪は延期され、経済の先行きも厳しい。年初にこの状況を誰が想定できただろう。あすから新年度
▼タレントの志村けんさんが亡くなった。「寅さん」の生みの親である山田洋次監督の最新作で初めて主演を務めるはずだったが、出演を辞退し治療を受けていた。誠に惜しい人を失った。新型ウイルスの怖さを再認識させられる
▼「男はつらいよ」の主題歌は渡世について「顔で笑って腹で泣く」と歌う。これから長く厳しい闘いになる。コロナ禍に心がふさいでも、笑顔までは奪われたくない。志村さんがくれた笑いを忘れまい。