<金口木舌>「風格ある『那覇女』」


社会
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 「なはをんな一代記」は那覇市出身の社会福祉事業家・金城芳子さんの著書の一つ。夫で言語学者の金城朝永氏の研究を支えながら自立した女性として自身の一生を記している。時代の世相をよくとらえており、近代女性史とも評される

▼芳子さんは明治生まれ。若い頃、沖縄学の父・伊波普猷の薫陶を受けた。東京都内の自宅を開放し県出身の若者の相談に当たった。児童相談所に約20年間勤め福祉に尽力した
▼「一代記」の編集には元沖縄タイムス取締役編集局長の由井晶子さんが携わった。91年、戦後の全国の新聞社で初の女性編集局長に就任した。女性記者の先駆けであり、共生社会の実現や女性の権利獲得に情熱を注いだ
▼由井さんが15日他界した。「忖度(そんたく)もこびるところもなく、筋を通して物事を伝える方だった」。女性史研究家の浦崎成子さんは故人をしのぶ。誠実な人柄は多くの女性たちに親しまれた
▼女性の活動や研究を支援する「金城芳子基金」を設立し27団体を支援した。ハンセン病問題ネットワーク沖縄の共同代表として、元患者の人権回復に奔走した。社会課題を俯瞰(ふかん)しながら弱い立場にある人々への目配りを怠らなかった
▼浦崎さんは「背筋の伸びた生き方は風格ある『那覇女』」とたとえる。由井さんのまいた種は、女性たちの活動を通して育っていくだろう。由井さんに感謝したい。