<金口木舌>自粛警察


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「緊急事態宣言が終わるまでライブハウスを自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」。東京のダイニングバーの看板に4月、張り紙があったという。店舗は自主休業中で、張り紙が見つかった日は歌手のライブを無観客でネット配信していた

▼新型コロナウイルスの感染拡大を受け、店舗に休業を求める嫌がらせが相次いでいる。「自粛警察」とネット上で呼ばれる行為だ。市民が市民を監視し非難する。コロナ禍は人の心までむしばんだのか
▼新型コロナ関連の110番は4月、東京都内で前月の約6倍に達した。警視庁によると「自粛しなければいけないはずなのに、公園で子どもが遊んだり高齢者が集まったりしている」「居酒屋の営業は良いのか」などの苦情があるという
▼ネット上には感染者の氏名や所属先を暴く真偽不明の情報もあふれる。相互監視の中で密告が横行する社会といえば、戦前を思い起こす
▼ミュージシャンの七尾旅人さんが自粛を巡り、SNSで「争う必要のなかった場所にまで分断と排斥が進行している」と書き込み、政府を批判した。仕事を失った音楽関係者を支援するネット配信に取り組む
▼今、必要なのは社会に敵を作りだし、恐怖をあおることではない。そもそも監視する相手が違うだろう。非常時だからこそ、権力を持つ者に対し一層目を光らせる必要がある。