<金口木舌>自主的な監視活動


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 国民を互いに監視させ、体制批判をする人を密告させる北朝鮮。北朝鮮研究者の宮田敦司氏はその目的について「反体制的な動きを監視し、批判の芽をつみ取ること」と論文で指摘している

▼報酬が与えられるため、夫婦間の会話を子どもが密告して表彰された例もあるという。日本は国民主権を憲法で定める民主国家なので相互監視を強制されることはない
▼だが国に強制されなくても自主的に一般人や事業者を監視し、個人情報などを特定してインターネットで許可なく流布させる人たちがいる。「自粛警察」という言葉が飛び交うようになった
▼山梨県に帰省後、新型コロナウイルスに感染したことが判明したにもかかわらずバスで東京に戻った女性の個人情報がSNSなどで拡散された。感染拡大防止の観点から女性の行動は軽率だったかもしれない
▼とはいえ、個人情報をネットにさらし、つるし上げて集中砲火を浴びせることはその人の人権を侵害する行為で、「私刑」と変わらない。ネット上であっても行き過ぎた行為は名誉毀損になる可能性もある
▼一丸となって感染拡大を防ぐために協力し合う国民性は素晴らしい。だからと言って、何らかの事情で自粛しなかった人や企業を名指ししてまで同調圧力で追い込むのは果たして健全な社会だろうか。黙認すれば、次の標的は私たちになるかもしれない。