<金口木舌>手遅れになる前に


社会
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 「ナチが共産主義者を襲ったとき、自分は共産主義者ではなかったので何もしなかった」。政治学者の丸山眞男が著書で紹介したドイツのニーメラー牧師の詩はこの一文で始まる

▼第2次世界大戦前、ナチスの横暴を多くの人が傍観した。自分とは関係がないという理由で。「ナチは教会を攻撃した。自分は教会の人間であった。そこで何事かをした。しかしそのときにはすでに手遅れであった」。詩はそう締めくくられる
▼検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案が衆院内閣委員会で審議されている。安倍内閣は1月末、政権に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定し、後に法解釈を変えたと強弁した。その正当化のため法整備を急いでいるように映る
▼「強行採決は自殺行為」とツイッターで指摘した自民党の泉田裕彦衆院議員は内閣委の委員を外された。そうまでして黒川氏を残したい政権の思惑は何か
▼小渕優子元経産相の政治資金規正法違反疑惑、甘利明元経済再生担当相の都市再生機構への口利き疑惑…。安倍政権下で数々の疑惑がうやむやになった
▼「政権の意に沿わない動きを封じ込める意図がある」と元検察トップも批判する法案だ。「自分ごと」と捉える人はどれくらいいるだろうか。権力の横暴を傍観し、いつか矛先が自分に向けられたときには手遅れかもしれない。